転得者の地位
みなさん、こんにちは!
本コラムをご覧いただき、本当にありがとうございました。今回が最終回となります。ここでは民法重要論点と題し、本試験で問われそうな論点を中心に、推論・学説問題への対応も視野に入れて、事例等を通して法的思考のプロセスをお話してきました。これらは皆さんの民法の理解をより深める手助け、あるいは推論・学説問題の回答時間を短縮するための、プラスアルファという位置付けのものですから、すべてを理解し、記憶する必要はありません。なお、学説問題への対応策については、
学習支援フォルダ内の「合格者が伝える択一式・記述式解法」
http://blogs.itojuku.com/gyoseishoshi_studyfolder/takuitsu_kijutsu_kaihou/index.html
第6回 択一式解法<推論・学説型>も、ご参考になさってください。
それでは本題に入りましょう。最終回のテーマは「転得者の地位」です。
(1)94条2項の第三者からの「転得者の地位」
(山田プログレッシブコース受講生の方はプログレカード民法C020参照)
この項目での問題点は、「転得者が、真の権利者に権利取得を対抗できるか」というところにあります。
事例①:悪意の第三者からの転得者が善意の場合
「Aは、債権者からの差押えを免れる目的で、Bと通謀して売買を仮装し、A所有の土地の登記名義をBに移転するとともに、本件土地を引き渡した。その後、AB間の事情を知っているCが、Bから本件土地を購入し、さらに事情を知らないDに売り渡した。なお、本件土地の登記名義はいまだBのもとにある。」
結論:判例(最判昭45.7.24)
転得者も94条2項にいう「第三者」の範疇に入るから、Dが善意であれば保護される。
本事例は、転得者が94条2項の第三者に当たるか、という「第三者の範囲」の問題です。判例(最判昭45.7.24)は、この「第三者」の範囲を「虚偽の意思表示の当事者またはその一般承継人以外の者であつて、その表示の目的につき法律上利害関係を有するに至つた者」に限定するとともに、虚偽表示の目的物につき、直接取引関係に立った者だけでなく、その者からの転得者もまた「第三者」に当たると解しています。
ですから、本事例では、Cからの転得者であるDも「第三者」に当たり、Dは善意である以上、目的土地の所有権を有効に取得することが出来ます。
なお、Dの善意につき無過失は不要であること(大判昭12.8.10)、Dは登記なくしてAに所有権を対抗できること(最判昭44.5.27)は、各自確認しておいてください。
事例②:善意の第三者からの転得者が悪意の場合
「Aは、債権者からの差押えを免れる目的で、Bと通謀して売買を仮装し、A所有の土地の登記名義をBに移転するとともに、本件土地を引き渡した。その後、AB間の事情を知らないCが、Bから本件土地を購入し、さらに事情を知っているDに売り渡した。なお、本件土地の登記名義はいまだBのもとにある。」
A説(絶対的構成説)
善意の第三者であるCが絶対的・確定的に権利を取得する以上、Cから権利を譲り受けた転得者Dは、悪意であっても保護される(Dは権利取得できる)。
B説(相対的構成説):判例(最判昭45.7.24)
94条2項は「善意の第三者に対抗することができない」と規定するにすぎず、善意の第三者からの転得者Dが悪意であれば、Dは保護されない(Dは権利取得できない)。
i. A説(絶対的構成説)の考え方
絶対的構成説では、Cの権利取得を絶対的に考えます。
善意の第三者であるCが保護され、絶対的・確定的に権利を取得する以上、Cからの譲受人であるDは、有効に権利を承継取得できるとします。
また、相対的構成説をとった場合、転得者の主観(善意・悪意)により、真の権利者Aの法的地位が不安定になることも理由の1つとされます。相対的構成説では、転得者Dが悪意であれば保護されず、Aは虚偽表示の無効をDに対抗することができますが、Dが善意であれば保護されて権利を取得する反面として、Aは権利を失うことになるからです。
A説(絶対的構成説)への批判
悪意者が善意者を「わら人形」として介在させることによって保護を受けるのは具体的均衡に欠ける、という批判がされます。悪意者Dが直接Bから目的土地を購入しても権利を取得することはできませんが、善意のCをダミーとして介在させ、Cから購入すれば、Dは保護されることになるからです。
また、第三者C(悪意)が保護されないのに転得者D(悪意)が保護されること、事情を知らないD(善意)も虚偽表示であることを十分に知っているD(悪意)も等しく保護されることは、虚偽表示の制度趣旨に悖るという批判も可能です。
ii. B説(相対的構成説)の考え方
相対的構成説では、Cの権利取得を相対的に考えます。
94条2項は、「善意の第三者に対抗することができない」と規定しています。前掲最判昭45.7.24のとおり、転得者も「第三者」に当たりますから、転得者Dが善意であれば保護されますが、悪意であれば保護されず、Aは虚偽表示の無効をもってDに対抗することができることになります。
また、94条2項にいう「対抗することができない」とは、真の権利者Aが、自らの帰責性(責められるべき事由)により、善意の第三者Cに対して無効の主張ができないことを意味します。Cは、その反射的効果としてBから権利を取得できるにすぎず、AB間の契約が有効になったり、Bが権利者となったりするわけではありません。したがって、Aが真の権利者であることには変わりがありませんから、悪意のDに対して虚偽表示の無効を主張できるのは当然だと考えることができます。
B説(相対的構成説)への批判
権利の譲渡・流通性が大幅に制限されるという批判があります。第三者Cから権利を譲り受けようとするDは、調査をすればするほど悪意とされて保護されず、かえって調査を怠った呑気者である方が保護される結果となりますし、またCは善意者に譲渡する以外に処分する方法がなくなるからです。
また、悪意の転得者Dが真の権利者Aによって目的物を追奪されたときは、Dは売主であるCに対して追奪担保責任(561条)を追及できることになり、善意の第三者を保護するという94条2項の意味が失われるとの批判もあります。ただしこの点については、そもそも相対的構成説ではAD以外の者に効力を及ぼすことはないのだから、悪意のDがAから追奪された場合に、前主であるCに対して担保責任を問うこと自体がおかしいという指摘がされています。
(2)二重譲渡における「転得者の地位」
本項目は、本試験からは多少発展的な内容を含んでおりますので、お読みにならなくてもかまいません。
この項目の問題点は、「第2譲受人からの転得者が、第1譲受人に権利取得を対抗できるか」というところにあります。
事例③:背信的悪意者からの転得者が善意の場合
「Aは、自己所有の土地をBに売却した。その後、Cが、Bがまだ登記を得ていないことに乗じて、Bに高く売りつける目的で、当該土地をAから購入し、登記を得た。その後、事情を知らないDが、Cから当該土地を購入した。現在、本件土地の所有権登記名義人はDである。」
本事例のように、Bに対して害意を持ったCについて、判例は「実体上物権変動があった事実を知る者において上記物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない」として、177条の第三者から排除しています(最判昭43.8.2)。したがって、Cが登記を得たとしてもBに権利取得を対抗することができません。その反面として、Bは登記なくして権利取得をCに対抗することができます。
A説(絶対的構成説)
背信的悪意者であるCの権利が否定され、Bが権利者となる以上、無権利者からの譲受人であるDは、善意であっても権利を取得できない。
B説(相対的構成説):判例(最判平8.10.29)
(山田プログレッシブコース受講生の方はプログレカード民法C072参照)
譲渡を受けたDは、自らがBとの関係で背信的悪意者と認定されない限り、権利を取得できる。
A説(絶対的構成説)は、Cの権利取得を絶対的に考えます。
Cが、Bとの関係で背信的悪意者と評価される以上、Bが権利者となり、Cは無権利者と確定します。とすれば、Dは無権利者からの譲受人ですから、その権利取得は否定されることになります。
したがって、本事例におけるDは、登記を経たとしても、Bに権利取得を対抗することができません。
B説(相対的構成説)は、Cの権利取得を相対的に考えます。
Cが、Bとの関係で背信的悪意者と評価される場合であっても、それは、Bが登記なくして権利の取得をCに対抗できるにとどまり、AC間の売買自体が無効となるわけではないので、Dは無権利者から土地を買い受けたことにはなりません。
また、背信的悪意者が177条の第三者に当たらないとされるのは、第1譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経た者が、登記を経ていない第1譲受人に対し登記の欠缺を主張することが、その取得の経緯等に照らして信義則に反して許されないからです。ですから、この趣旨から考えると、Dが177条の第三者に当たらないとされるかどうかは、Dと第1譲受人たるBとの関係で、相対的に判断されるべきです。
したがって、D自身がBとの関係で背信的悪意者と評価されない限り、「第1譲受人であるB」と、「背信的悪意者たる第2譲受人Cからの善意の転得者D」とは対抗関係に立ち、本事例において先に登記を得たDは、所有権の取得をBに対抗できることになります。
事例④:善意者からの転得者が背信的悪意者
「Aは、自己所有の土地をBに売却したが、その後、事情を知らないCが、Aから当該土地を重ねて購入し、登記を得た。その後、Dが、Bに高く売りつける目的で、Cから当該土地を購入した。現在、本件土地の所有権登記名義人はDである。」
A説(絶対的構成説)
Cが善意である以上、Cが権利者であることに確定し、権利者からの譲受人であるDは、背信的悪意者であっても、有効に権利を取得する。
B説(相対的構成説):判例(東京高判昭57.8.31)
背信的悪意者は、第1譲受人たるBとの関係で判断されるべきものであるから、転得者Dの場合にも、Bとの関係で相対的に適用されるべきである。
A説(絶対的構成説)は、Cの権利取得を絶対的に考えます。
Cは善意であるから権利を有効に取得することができ、登記を経た以上、Cが権利者として確定します。したがって、Dは権利者からの取得者ですから、背信的悪意者とされたとしても、有効に所有権を取得することができます。
B説(相対的構成説)は、Cの権利取得を相対的に考えます。
Cが有効な権利者であることは、A説と変わりませんが、事例③で見たように、背信的悪意の理論の趣旨から考えると、Dが第三者に当たらないとされるかどうかは、D自身と第1譲受人たるBとの関係で判断されるべきものです。したがって、本事例においては、D自身が背信的悪意者と判断される以上、Bは登記なくして、Dに所有権を対抗することができます。
まとめ:判例の考
本コラムの締めくくりとして、私から3点アドバイスさせてください。
① 本試験当日は、結果を出すことにストイックになる
皆さんが今まで積み重ねてきた努力は、決して消えることのない、生涯にわたって役に立つ財産となるでしょう。ただ、皆さんの目的は行政書士試験に合格することであり、そのための努力は、「手段」であって「目的」ではありません。試験の結果だけがすべてではありませんが、こと試験に関しては、本年11月9日、目の前の回答用紙1枚で評価されることも事実です。ですから、本試験当日は何があっても諦めず、自分の持てる力をすべて吐き出し燃え尽きるまで、喰らいついてください。
② 自分自身が自分の合格を確信して試験に臨む
今まで努力を続けてこられた自分を褒め、励ましてあげてください。そして、自信を持って試験に臨んでください。合格を勝ち取る人は、自分自身が合格を確信できる人です。
③ 試験そのもの以外の不安要素をできる限り取り除く
試験会場へのアクセス、所要時間、問題の回答手順、等々をあらかじめ準備し、問題を「解く」こと自体に100%集中できるように万全の体制を整えてください。
最後に、私自身が常に心に留めている言葉を送ります。
「心はホットに、頭はクールに」
皆さんの健闘をお祈りしております。頑張ってください。




