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2018年2月 1日 (木)

第270回 仮想通貨

先月は、興味深い事件がいくつか起こりました。成人式の晴れ着を待っていたのに届かなかったという事件、仮想通貨が盗まれたという事件などは、被害者に申し訳ないものの、考える訓練としては興味深いものでした。

成人式の日に届かなければ意味がないという点は、定期行為の典型的なものです。いまさら返してもらっても意味がないといって、引き取りを拒んだら受領遅滞になるのでしょうか。大雪で届けることができなかった場合はどうでしょうか。こうしていろいろと考えてみることが法律を使いこなす訓練になります。代金支払済みの顧客に対しては、返金するそうですが、これを仮想通貨で返金すると言ってきたらどうでしょうか。

仮想通貨取引所大手「コインチェック」から約580億円分の仮想通貨「NEM(ネム)」が盗み出された事件も起こりました。仮想通貨は、2017年4月施行の資金決済法2条5項で定義されていますが、法定通貨ではないので、強制通用力はありません。よって、合意がない以上は仮想通貨での支払いについては受領を拒むことができます。

そもそも仮想通貨の法的性質は未だ明確になっていません。まず、所有権の対象ではありません。有体物(民法85条)ではないからです。では債権でしょうか。ビットコインなどの仮想通貨には発行者が存在せず、特定の者に対する債権でもありません。債権の定義である「特定人から特定人に対して…行為を請求する権利」という定義にあてはまらないのです。

法的性質を物権類似と考えるか、金銭類似と考えるかは別として、不正取得者に対して本来の保有者が不当利得や不法行為に基づく請求ができるとはいえそうです。ですが、現物返還ができるか、転得者との関係は?と考えだすと相当ややこしくなります。取引所との関係ではオフラインの合意が重要な意味を持ってくるでしょう。さらに刑事法との関係では、詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪、横領罪、背任罪など刑法が適用されるのでしょうか。

そもそもビットコインというインターネット上の存在で、誰も管理しない点に価値があり、ブロックチェーン(分散型台帳)にはプロトコルが存在していてそのプロトコルに従って間違いなく動作することへの信頼がブロックチェーンのありようなのです、と言われても全くピンとこない人もいるのではないでしょうか。

スマートコントラクトというシステムが自動的に取引を執行する仕組みもコードという機械が理解する言語のようなものそのものが契約だという発想なのですが、何が合意内容なのかと言語にした時点でコードそのものの合意ではなくなってしまうような気もします。またオンチェーンの合意、オフチェーンの合意というものを考えると手形関係と原因関係との類似性を見て取れます。

これまでの通貨のように国家が管理し、法律によって規制された世界とは全く違う世界が生まれているようです。どうしても既存の概念にあてはめて、それとの比較を考えてしまいがちですが、その場合でも本質をとらえて共通点と相違点を見つけていく、つまり基礎基本という本質を押さえた上での分析力が必要となるのです。新しいことに挑戦するときも基礎基本が重要であると改めて思います。

それと同時に、既存概念にとらわれない自由さも必要です。人は自分が見てきたものを前提にしてしか新しいものを評価できません。この点は、昨年読んだ「お金2.0」(佐藤航陽著)でも指摘されていました。この本は「資本主義」から「価値主義」への流れを予測し、お金から解放される生き方を提唱するものでとても面白かったです。

インターネットにより知識のコモディティ化が促進され、物知りであることに価値はなくなり、情報をどのように使いこなすかが重要になってきていると指摘されていましたが、試験の世界でもまさに暗記量ではなく、法律をどう使いこなすかが問われる時代になっているのと同じです。そして、この先は「自分の価値を高めておけば何とでもなる」世界が実現しつつあるので「個人の価値」が重要だと指摘します。

何に役立つのかという有用性としての価値だけでなく、愛情、共感、信頼などの内面的価値や社会全体の持続性を高めるような社会的価値にも着目します。この点などは、食べるための職業として法律を学ぶだけでなく、人を助け、社会貢献できる職業として法律家や公務員をめざすことには大きな価値があり、それが評価される時代になるという予測で強く共感できました。伊藤塾の「合格後を考える」という理念、憲法価値を実現する法律家・公務員をめざすという視点は間違っていないようです。

塾生の皆さんには、法律の勉強を通じて内面の価値に磨きをかけ、高い志を掲げながら、自分自身の価値を高めるために真剣に勉強してほしいと思います。それがまだ見ぬ新しい時代に対応していくためにもっとも重要なことだからです。頑張りましょう。

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