« 2000年6月 | メイン | 2000年8月 »

2000年7月

2000年7月 1日 (土)

第59回 絶対に勝つ

 ヒクソン・グレイシー。

 名前くらいは聞いたことがあるという人も多いでしょう。

 柔道家の前田光世が今世紀始め世界各地で他流試合を繰り返していましたが、最終的にはブラジルに住み着きました。その前田のもとで柔術を学んだのがグレイシー一族です。エリオ・グレイシーが体系立てたグレイシー柔術として完成させ、7人の息子たちに伝えました。彼はその三男としてブラジルに生まれ、400戦以上も無敗という伝説を作り、今なお現役です。

 なにか、必勝法はあるのでしょうか。いいえ、日々淡々と自分を鍛えることだけです。ある雑誌のインタビューでこう答えていました。「二歳の子どもがテーブルの上にいったん上がってしまえば次に上がるときにはなんてことないように、一度上がったら次のゴールを設定する。すぐ行ける場合もあるし、時間がかかる場合もある。ただ、常にゴールを設定してクリアしていくことを心がけてきた。それが私の今までの人生の進化のさせ方である」と。
 毎日の目標を設定しそれに向かって懸命に生きる。ただ、それだけなのです。

 このしなやかな強さの秘密は正直さにあるようです。「自分に正直であれば、自分の弱いところを認めることができる。そうすれば、いかに弱い部分を補っていけるかにベストを尽くすことができる」と彼は言います。

 強く勝ち続ければ続けるほど、負けることや失敗が許されなくなり、恐怖心が生まれたり挑戦することに臆病になったりするものです。しかし、彼は、試合に負けることを失敗とは定義しません。単にゴールまで時間がかかることにすぎないというのです。また、別の方法を考えてゴールをどのようにクリアーすればいいかを追求すればいいだけだというのです。どこまでも冷静で謙虚で前向きです。苦しいときほど、謙虚にそしてさらに信念をもって立ち向かうのです。

 スポーツの世界では絶対ということはありません。いや、これは世の中のすべてのことにもいえるかもしれません。しかし、絶対に勝つと信じて自らにそう言い聞かせて試合に臨まなければ勝てるものではありません。始めからだめかもしれないと思っていたのでは、気持ちで負けてしまっています。人間はもともと弱いものです。絶対などありえないとわかっていても絶対に勝つと信じて闘わなければならないときがあるのです。特に未知のものに挑戦するときにはそうです。

 絶対ということがない世界で、絶対の勝つことを目指して、自分自身をストイックに鍛え上げる。我々はその姿に打たれるのかもしれません。
 ヒクソンは試合のために来日してすぐに長野県白馬村で山ごもりにはいったそうです。テーマは「自分自身のパワーと自然の清らかさを結合するため」とのこと。日本人によって伝えられブラジル人によって熟成された技がこの日本の自然の中で完結します。やはり最後の決め手は人と自然の一体化なのです。

 この世界の王者は41歳。これを「まだ」と見るか、「もう」と見るか。自分次第です。