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2001年4月

2001年4月 1日 (日)

第68回 心の響き

 今、CDショップに行くとクラシックのコーナーに二人のバイオリニストのCDが並んでいます。川畠成道さんと諏訪内晶子さんです。二人とも先を急いでデビューしたのではなく、じっくりと内面の成熟を待ってから世に出ました。もちろん、実力は10年前から世界第一級ですが、ときを待ったのです。

 1989年の熱いプラハを思わせる諏訪内さんの演奏は、彼女が世界で過ごした10年の時がひとつひとつの音の結晶となって自己主張しているように私には感じられます。

 こころの叫びを音楽にして人に伝える。それは人間としての成長がなければなしとげられないことです。その道で一級の仕事をこなすには、人間としても一流でなければならない。そして、ものごとには時期があることを教えてくれます。ゆっくりいそげ、そして本物になるということをまさに体現しているような方たちです。

 川畠さんは目が不自由です。それでも英国王立音楽院で主席となり、人々に感動を与える美しい音を出します。彼は著書の中で、「自分と人は違いますので、それを比べても仕方がないと思っています。・・・自分自身がどれだけできたかということが自分の価値観になっていますし、どれだけ納得がいくかいかないかという判断にすべてを置いています」と述べています。人と比べる相対的な価値観ではなく、自分を基準にした絶対的な価値の中で強く生きていく姿勢に打たれます。そんな彼でも、あるコンクールのセミファイナルで落ちてしまったときには、精一杯やっているのに結果が伴わないことに大変なショックを受けて落ち込んだそうです。それでも立ち上がっています。そして、何度も何度も挫折しながら強くなっていくし、人にも優しくなれると28歳の天才は振り返ります。人はどのような境遇に置かれてもその中でベストを尽くすことによって奇跡を起こすことができるのです。

 二人の演奏を聴くと、ひとつのことに目標をもって専念したその成果が音となって現れてきます。ひたすら美しい音をめざし、人の心に響く音をめざして、作曲家の魂に少しでも近づくために日々の練習を続けきた成果です。そのひたむきで着実な努力の結晶がひとつひとつの音となって私たちの心に響きわたり、無限の空間に広がっていきます。演奏技術と人を感動させる力は別のものなのだと納得させられます。芸術の本質は心の共鳴です。一流の芸術家はそれを可能にします。

 法律家はまったく違う仕事ですが、同じく人の心を揺さぶることができます。他方でどんなに高度の法的技術をもってしても、本当の救済にはならないことがあります。それでは本物の法律家ではありません。私は皆さんに人の心を癒すことができる真の法律家になってほしいと思っています。もちろん訴訟での勝ち負けは大切です。ですが、それを越えた価値もあるはずです。その人が救われるか、癒されるか、本来、神にしか許されないことを代わりに行う者として、この救い、癒しが究極の目的であるような気がしてなりません。皆さんがめざすべきものは法律を通じての人々の幸せです。そのためには自分自身の生き方においても勝ち負けにこだわることなく、本物をめざして日々努力を続け、魂を鍛えなければなりません。