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2007年8月

2007年8月 1日 (水)

第144回 戦後レジーム

 先の参議院選挙では改憲もアフガニスタン・イラク自衛隊派遣も争点になりませんでした。国民にとっては自分の生活がかかっている年金や格差の問題こそが皮膚感覚で理解できる命に関わる問題だからです。同様に受験生にとっては、試験以外のテーマにはあまり関心が持てないかもしれません。

 ですが、8月は戦争と平和について深く考える時期でもあります。今この時代に法律家として仕事をするということがどういう事を意味するのかをしっかりと自覚するためにも、時々は歴史を振り返ってみる必要がありそうです。

 安倍首相は就任以来、「戦後レジームからの脱却」が必要だとして改憲を主張してきました。戦後レジーム(戦後体制)とはどういうことなのか、第二次世界大戦に負けて60年前に現在の憲法が施行される前後、つまり明治憲法下の戦前と新憲法下の戦後を比べてみると明らかになります。

 戦前は、1874年の台湾出兵に始まり、71年間も戦争をし続けた国でした。戦後は新憲法の下で、戦力と交戦権を否定して、一切の戦争を放棄しました。その結果、60年間直接的な戦争をしない国でい続けることができました。

 戦前は、国のために犠牲になることはすばらしいことだと教育するために、国家が教育に介入してきた国でした。戦後は、憲法で子どもの学習権を保障し、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入を禁じました。

 戦前は、戦死という遺族にとって悲しい出来事を、名誉あるすばらしいことだと讃えるために靖国神社という仕組みを作り、宗教を戦争に利用した国でした。戦後は、政治は宗教に関わってはならないという政教分離原則を採用しました。

 戦前は、思想良心の自由は保障されず、君が代や日の丸を通じて、天皇崇拝や軍国主義思想が強制されました。表現の自由も法律によって自由に制限できる国でした。戦後は法の支配を採用しこれらの人権保障を徹底させました。

 戦前は、都道府県は政府の出先機関のような役割を果たすだけで、地方を戦争のために利用した国でしたが、戦後は、地方自治を憲法で保障し、政府が地方自治の本質を侵すことができない国にしました。

 戦前は、障害者、女性、子どもを戦争に役立たないとして差別した国でしたが、戦後は、差別のない国をめざしてきました。

 戦前は、華族・財閥・大地主のいる一方で貧困に喘ぐ人々も大勢いた格差のある国でしたが、戦後は、貴族制度を否定するとともに、財閥を解体し、地主に土地を提供してもらう一方で、すべての国民の生存権を保障し、格差の是正をめざす国となりました。

 そして何よりも、戦前は、天皇が主権者であり、国家のために個人が犠牲になることがすばらしいという価値観の国でしたが、戦後は、主権者は一人一人の国民となり、その個人の幸せに奉仕するために国家があるのだという個人の尊重を根本価値とする国になりました。

 国民は60年前に憲法を制定して、こうした戦前の旧体制に決別して新しい国になることを決意したのです。これが戦後レジームです。国民は新憲法の下、戦前の忌まわしい旧体制から脱却して、一人一人を大切にする新しい時代の日本に生まれ変わろうと努力してきました。そこでは法律家が一つ一つの事件を通じて憲法価値を守るために懸命にその責任を果たしてきたのです。私は、この憲法の価値を維持し発展させることが、今を生きる者の責任であり、憲法を知ってしまった者の責任だと考えています。