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2008年6月

2008年6月 2日 (月)

第154号 『盤石な基礎』

孫子の兵法という有名な兵法書があります。非暴力平和主義とか憲法9条とかいっている人間が戦争の方法論を論じるのはどうかと思う方もいるかもしれませんが、試験は一種の戦いですから参考になる点はいくつもあります。二千五百年たってもなお様々な読みとり方ができて興味深いものです。

13篇あるこの孫子の兵法の中でも「形篇」は、各種試験にも大いに役立ちます。目に見える有様を形というのですが、軍の態勢についての攻めと守りについて述べています。「孫子はいう。昔の戦いに巧みであった人は、まず(身方を固めて)だれにもうち勝つことのできない態勢を整えたうえで、敵が(弱点をあらわして)だれでもがうち勝てるような態勢になるのを待った。」(「新訂孫子」金谷治訳注・岩波文庫、以下同様)

この部分は、「昔の戦上手は、こちら側の態勢を整えておいて、相手のくずれるのを待った。」と読みとることができます。これを試験にあてはめると、まず守りつまり基礎を固めてから、攻めつまり加点できるチャンスを狙うといってよいでしょう。

続けて「だれにもうち勝つことのできない態勢(を作るの)は身方のことであるが、だれもが勝てる態勢は敵側のことである。だから、戦いに巧みな人でも、(身方を固めて)だれにもうち勝つことのできないようにすることはできても、敵が(弱点をあらわして)だれでもが勝てるような態勢にさせることはできない。」といっています。

基礎を固めて守ることは自分の側のことなので、自分でできるけれども、攻めて加点できるかどうかは、敵つまりその問題によるということです。まずは徹底的に基本を重視して基礎固めをしなければなりません。これは自分の努力次第でいくらでもできるはずです。そして、問題の中に自分の得意分野やその問題固有の問題点を見つけることができ、これは攻めることができると判断したら、攻めの答案を書いて勝負すればいいのです。

この後には、「守備の態勢を整えれば戦力の余裕ができ、攻撃すると戦力が不足する。」と読めるようなこともいっています。基礎をしっかりと押さえておけば、加点をねらう余裕も生まれる、始めから攻めようとすると時間不足になって失敗するということです。盤石な基礎がいかに大切かがわかります。

そして、勝ち方においても次のようにいっています。「戦争してうち勝って天下の人々が立派だとほめるのでは、最高にすぐれたものではない。(無形の勝ちかたをしなければならぬ。)・・・昔の戦いに巧みといわれた人は、(ふつうの人では見わけのつかない、)勝ちやすい機会をとらえてそこでうち勝ったものである。だから戦いに巧みな人が勝ったばあいには、(人目をひくような勝利はなく、)智謀すぐれた名誉もなければ、武勇すぐれた手がらもない。」

本当の戦上手は、無理なく自然に勝つものだから、誰からもそれとわかるような派手さはなく、人目につくようなところもないということでしょう。本当の合格答案は、シンプルでわかりやすく、誰が読んでも納得できるような当たり前のことしか書いてありません。基本に忠実に、基礎的知識を丁寧に書いてあるため、派手さもなく淡々としています。しかし、プロの目からみるとすごい答案ということになるのです。

「基本で差をつけろ、基本で差をつけられるな。」これは私が受験生だった30年近く前に、自分の机の前に貼っていた標語です。二千五百年前から語り継がれた原則にすぎません。