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2009年4月 2日 (木)

第164回 憲法教育

先月、札幌弁護士会主催の「中高生のための憲法講座」で憲法の公開授業をしてきました。私は日本が真の立憲民主主義国家になるためには、子どもたちに対する法教育とくに憲法教育、主権者教育が決定的に重要だと考えています。

憲法改正国民投票法が成立し、2010年5月には憲法改正手続きを具体的に進めることができるようになってしまいました。手続法の制定よりも、憲法教育をすることが先だと主張していたのですが、今は現実を直視して、一刻も早く子どもたちに対する実質的な憲法教育を行わなければなりません。

改憲、護憲という枠を超えて、自分の頭で考えて、自分の価値観で判断して、その結果に対して市民として責任をとる覚悟のある国民を一人でも増やさなければならないのです。ムードに流されたり、マスコミに踊らされたりすることなく、冷静に判断できるだけの理性と知性が必要となります。残念ながら学校での憲法教育はまだまだ不十分と言わざるを得ません。

会場や懇親会にも多数の弁護士が参加してくれました。うれしかったのは、その中に多くの教え子がいたことです。20数年前に私の講義を聴いて受かったという方もいましたし、塾での憲法の講義を聴いて自分も次代を担う子どもたちや市民に憲法への熱い思いを伝えたいという気持ちが自分の受験時代を支えたと言ってくださった方もいます。

毎日、企業法務の世界でがんばっている方々が、こうして憲法教育に精を出し、人権問題や平和問題に真剣に取り組んでいるのです。これこそが真の法律家の姿だと思いました。経済の原理と憲法の原理をうまく自分の中でバランスをとっているのです。

経済の市場原理はとても大切なものです。ですが、それ一辺倒ではバランスを崩します。この原理は、自由競争と効率性を追求しますが、自由競争は必然的に勝ち負けを生み、弱者、敗者を排除していきます。淘汰によって強いものが生き残ればいいのだという発想は、人間社会の大切なものを失わせます。また、効率性を追求するということは、プロセスはどうでもいい、結果がすべてという成果主義につながります。結果を出せない生き方は評価されません。

しかし、こうした経済の市場原理とともに、憲法の人権の原理があることを忘れてはなりません。憲法の人権の原理においては、弱者を排除することなく、社会の一員として受け入れていきます。排除ではなく受容の原理です。そして、結果も大切ですが、それと同じくらいそこへたどり着く過程、プロセスもまた重要だと考えます。憲法31条の適正手続の保障などはその最たるものです。

憲法は幸福権ではなく、幸福追求権を人権として保障しました。これは幸福へ向かうそれぞれの生きる過程を人権として保障しようとしたものです。人間は結果だけのために生きるのではありません。もし結果だけを問題にするのであれば、人には死という結果しか待っていません。そこで重要なことは、死という結果ではなく、今をどう生きるか、つまり生きている過程です。この生きるという営みそのものに価値があるのです。

人は何かの役に立つから価値があるのではありません。そこに命ある存在として生き続けている、そのことだけで価値があると考えるのが人権の原理です。寝たきりでなんの仕事もしない。介護が必要なだけで、家族の役にも立たない。それでもそこに生きている限りかけがえのない価値がある。それを大切にする憲法の人権原理です。
 
こうした経済の市場原理と憲法の人権原理のバランスをとりながら、心豊かに暮らせる社会を目指すことが、憲法教育を受けてしまった法律家の使命だと思います。

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