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2009年11月

2009年11月 3日 (火)

第171回 アジアの人権

先日、ベトナム、シンガポールそして韓国に行ってきました。ベトナムではベトナム戦争の激戦地であった中部地域で、韓国軍の若者が民間人多数を虐殺した村をいくつか訪問しました。たとえ国防のための軍隊であっても、大国に利用されて加害者になってしまう現実を思い知らされました。

シンガポールというと観光、貿易立国というイメージがあります。確かにそのとおりなのですが、輝かしい経済発展の裏に、事実上の一党独裁政権下での言論弾圧などの暗い闇を抱えている国でもあります。ここでは政府を批判することは一切許されません。街角で憲法のパンフレットを配るだけで逮捕されてしまいます。
あらゆるメディアは一つの持株会社の下にあり、首相一族つまり政府によって完全にコントロールされています。政治的自由を徹底的に抑圧して、経済発展を優先させるシンガポールモデルといわれる国家建設の手法はベトナム、中国など近隣諸国でもひとつの見本として高い評価を得ているそうです。しかし、一部の権力者が富を独占し、貧困と格差が進み、透明性がなく、言論の自由を封じるような社会が永続できるとは思えません。

他方、韓国では、金大中、盧武鉉と続いた民主化政権の下で、かなり人権状況は改善されたと言われています。金大中政権の下で設立された国家人権委員会では、国民からの人権侵害の申し出を審査し改善勧告を出しています。申し立ての4割は刑務所の受刑者からだそうです。そうしたシステムがあること、刑事手続きでは取調べの可視化が既に実現していることなど、様々な点で人権の先端をいっています。しかし、李明博政権になってから、デモの弾圧など反動的傾向が強くなっているようです。

先日発表された国境なき記者団による「報道の自由」ランキングによると、175カ国中、トップは例年どおりデンマーク、フィンランドなどの北欧諸国が占めており、北朝鮮、エリトリアなどが最下位に位置づけられています。ビルマ(ミャンマー)171位、中国168位、ベトナム166位、シンガポールは昨年より順位を上げたものの133位、韓国は昨年の47位から大きく下げて69位となっていました。日本は、小泉・安倍両政権時代は51位だったものが昨年29位、今年は17位と順位を上げています。ちなみにアメリカはイギリスと並んで20位です。もちろんひとつの指標にすぎませんが、アジアの人権状況が相当に厳しい状態にあることを示すものです。

確かに人権という概念は、西欧近代キリスト教社会で生まれたものですし、歴史上も普遍的なものではありませんでした。しかし、やはり人権は普遍的な価値であるべきだと考えます。日本で生まれた「人権」という言葉がいまや韓国、中国でも使われるようになりました。千葉法相は、日本が長年拒んできた国連人権委員会への通告制度を採用することを宣言しています。日本国内の人権侵害について国連機関での審査を求めることができるようになるのです。

先日、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会談において、政府間人権委員会の創立宣言が採択されました。ここでも日本がアジアの人権状況を改善するためのリーダーシップをとることが求められるでしょう。こうした真の国際貢献のためにも日本国内の貧困、格差、差別などの人権侵害をなくし、政治の透明性をより高めた自由な社会を作り上げていくことが必要です。一人ひとりがお互いの違いを尊重し共生できる、多様性の認められる社会を築くために、法律家をめざす私たち自身の意識の有り様も問われています。