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2009年12月

2009年12月 2日 (水)

第172回  一人一票

皆さんは布施辰治(1880-1953年)という弁護士を知っていますか。その生涯を描く映画の撮影が、出身地の石巻で始まったのですが、そこで憲法の講演をしてきました。「生きべくんば民衆とともに、死すべくんば民衆のために」という言葉を残したように生涯を庶民や弱者とともに生きた弁護士です。思想、言論の自由が著しく制限されていた明治憲法の時代から、平和と人権のために最後まで闘い続け、弁護士資格の剥奪や2度の受刑生活などの困難にもかかわらず最後まで権力に屈することなく、信念を貫き通しました。

朝鮮人、日本人の別なく、男女の別なく、一人一人を人間として尊重するため、反戦、死刑廃止、労働者の権利、表現の自由そして男女平等普通選挙を実現しようと全国で人々にその意義を説いて回りました。そして1925年には男子普通選挙法が成立し、戦後になってようやく男女平等普通選挙も実現しました。憲法の価値を先取りして、その価値のために闘い続けたこうした先人たちがいたからこそ、日本の民主主義の基盤ができたのです。

ところが、この民主主義が未だこの国では真の意味では実現されていません。一人一票という民主主義の基本がないがしろにされ、住所による差別がまかり通っているのです。高知3区の選挙権を1票とすると、東京・渋谷では、衆議院で0.48票、参議院で0.23票しかありません。皆さんも是非、自分の選挙区の1票の価値がどれくらいか、私も発起人になった一人一票実現国民会議へアクセスして確かめてください。そしてこの運動のサポーターになってください。

この理不尽を是正する方法があります。憲法を勉強した皆さんならおわかりのとおり、こうした民主政の過程そのものに瑕疵が生じたときには、国会など政治部門で是正することは困難です。そこで最高裁が違憲審査権を行使してこの不平等を正す必要があるのですが、残念ながら現在の最高裁には未だこの不正義に目をつぶり合憲判決を出す裁判官がいます。雑感168号で書いたようにそれら判事を国民審査(憲法79条2項)で罷免するのです。

憲法は、国民が国政において主権者として直接その主権を行使する場面をこの国民審査と憲法改正国民投票の2つに限定しました。ですからこの国民審査は国民が主体的に主権者として行動するきわめて重要な場面なのです。一人一票を実現するために国民審査を使う、この斬新な方法を発見したのは、升永英俊弁護士です。私も従来からこの議員定数不均衡が日本の真の民主主義の実現を阻んでいる諸悪の根源だと講義でも言い続けてきましたが、この手があったことには気づきませんでした。頭から国民審査は形式的なもので実効性などないと思い込んでいたようです。恥ずかしい限りです。私はこの発見は世紀の大発見だと思っています。自分が設定した目的を達成するためには、あらゆる手段を柔軟に考え実行する。そして最後まで絶対に諦めない。升永先生が青色発光ダイオード事件はじめ、あらゆる困難な事件で勝訴を続けられる理由がわかった気がしました。

11月は司法書士試験、旧司法試験、公務員試験などの合格祝賀会がたくさんありました。合格者の晴れ姿を見るのは本当によいものです。ですが、この合格者たちも大半は、これまで苦しい思いをしながらも最後まで諦めなかったからこそ、合格の日を迎えることができました。憲法価値を実現し正義のために志を高く持ち続けていくことは並大抵のことではありません。ですが、そうした法律家や行政官が理想のために闘い続けるからこそ、民主主義が実現し、個人が尊重される社会を築いていくことができるのです。皆さんに期待しています。