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2010年6月

2010年6月 3日 (木)

第178回  法律家の原点

みなさんに、目標とする法律家はいますか。
「合格後どのような法律家になるか」を考えながら勉強することは大切です。
明日の法律家講座」などで、いまを生きる法律家の話を聞くとともに、過去の法律家にも目を向けてみてください。
布施辰治という弁護士を再度紹介します。その仕事・生き方から私たちは多くのことを学ぶことができます。

布施辰治は1880年に生まれ、日本による朝鮮や中国への侵略が大規模に展開されていく、明治・大正・昭和の時代を弁護士として生きました。当時、次第に戦争に反対するような言論や思想に厳しい統制がかけられていきました。そのような状況の中で、布施は被疑者・被告人の権利を守る刑事弁護士として手腕を発揮していきます。特に死刑を求刑される被告人の弁護に情熱を燃やしました。布施の弁護は手練手管を弄するものではなく、事実にもとづく理詰めのものであり、そして被告人との信頼関係に依拠するものでした。

布施は戦後「生きべくんば民衆とともに、死すべくんば民衆のために」という言葉を残します。その生涯は、自ら投獄されながらも信念を貫いて弁護した治安維持法事件などの刑事事件の他にも社会的弱者の弁護に費やされました。のみならず、法廷の戦士から社会運動の闘士として活躍の場を広げます。男女平等普通選挙を当然のことと考え、これを実現しようと全国で人々にその意義を説いてまわり、また公娼廃止運動にも携わりました。さらに布施は朝鮮人の権利のために力を尽くします。当時、朝鮮独立の正当性を法廷でも主張し、朝鮮人たちから絶大な信頼を勝ち得ています。
こうした自由と平和を求める闘いは、現在の日本国憲法に通じるものがあります。

このたび、「弁護士 布施辰治」というドキュメンタリー映画が完成しました。
布施の孫で、日本評論社の社長を務めた大石進さんによって同名の書籍も出版されています。ともに社会的弱者のために弁護士の職責を全うした布施という人間の魅力を存分に明らかにしたものとなっています。
皆さんの中には今後、裁判官、検察官、行政官になって官の側で仕事をする人や、企業法務の世界で活躍する人も大勢いることでしょう。ですが、理不尽を許さないという正義感、人に尽くすという利他の精神は、どの法律家も同じです。格差が広がり、社会的弱者が溢れている今日の日本社会において、いまこそそのような法律家の原点を知ることはとても有意義なことだと考えています。

今年は日本による韓国併合100年にあたります。
このような年に布施が語られることはとても意義深いものです。
韓国海軍哨戒艦の沈没事件で朝鮮半島の緊張関係が高まっていますが、東アジアの人々が平和に生きる権利を実現していく上で何ができるでしょうか。
日本がかつての朝鮮半島を侵略した、加害者としての歴史に向き合うことが、まずは重要です。

また一方で、日米安全保障条約50年になる今日まで、戦前、戦後を通じてヤマトは沖縄に多くの負担、いや被害を押しつけてきました。実はここでも加害者になっています。
民主党政権の下で沖縄に起きていることを見るとき、朝鮮人たちに対する布施の献身から、理不尽を許さない、少数者の権利を守り抜くという法律家の原点に立ち返って何ができるかを私たちも考えなければなりません。
皆さんが合格した後にやらなければならないことはたくさんあります。
将来のその日のために、ぜひ頑張ってください。期待しています。