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2012年11月

2012年11月 2日 (金)

第207回 憤り

「住む場所によって『あなたは0.2人前の価値しかない』となれば、ふざけるなと思いませんか」1人1票参議院判決の記者会見で思わず声を大きくしてしまった私の言葉が朝日新聞天声人語で10月の言葉として紹介されました。そこには「沖縄に関して、日本の民主主義は機能しないのです」という作家の目取真俊さんの言葉も沖縄の深い憤りを伝えるものとして取り上げられています。

何かに憤る気持ちは大切です。特に法律家や行政官にとって、不条理・理不尽や不公正なものを見過ごすことができないという素朴な感情を持ち続けることは重要なことだと思っています。
制度として不条理・理不尽なものは、それによるしわ寄せをどこかに引き起こし、それによって不利益を受ける人を生み出します。
これを見過ごすことは、誰かの犠牲の上に自分の幸せが成り立つことを知ってしまったときと同じくらいに、そわそわして心地よくないものです。

そして法律を学んだ者は、その自分の感じたことを言葉にして、事実と論理で人を説得していきます。この技術を身につけることこそが、法律を学び使いこなせるようになる重要な目的の1つです。

10月17日の参議院議員選挙無効訴訟判決では、15人の裁判官全員が5倍の不平等つまり住所によって0.2票しか認めない選挙制度は違憲と断じました。この問題に最高裁判事全員が違憲判断を下したのは初めてのことです。しかも、都道府県単位の選挙区は憲法上の要請ではなく、参議院の独自性から投票価値の平等を後退させることは許されないことも明確に指摘しました。
これまで少数意見だったものが多数意見に取って代わったのです。

最高裁判例もこうして自分たちの主張で変わっていくのだということを、実感できたことは素直にうれしく思います。しかし、最高裁大法廷で真剣に身を乗り出すように私たちの弁論を聞いていた竹崎長官の姿を思い出すと、さらにもう一歩踏み込んだ1人1票判決がほしかったと残念な気持ちが残ります。

少数の国民から選ばれた国会議員が国会の多数を占めていいはずがない。それでは国民主権国家とはいえません。国会議員主権になってしまいます。これを正すためには何としても、最高裁が1人1票でないから違憲だという判決をださなければならないのです。そのためにはまだまだ私たち国民が頑張らないといけません。
来る総選挙の際に行われる最高裁判所裁判官国民審査において、心から尊敬する最高裁判事であっても、明確に1人1票でないから違憲だという判断を示していない判事には×をつけざるを得ません。

このように未だ日本では正しく民主主義が機能していません。にも拘らず、縛られる側の政治家が憲法改正をまた声高に主張し始めました。権力を縛るために憲法が存在するという基本をも理解せず、人類の生み出した立憲主義という英知に対する敬意のかけらもないような政治家が大きな顔をしていることにも激しい憤りを感じます。

この憤りはどこへもっていけばいいのか、この憤りを収めるために法律家としてどのような行動をとるべきなのか、これも難しい問題です。
私は一人でも多くの市民の皆さんに立憲主義を理解してもらい、ムードや風に流されない確固とした自分自身の憲法感覚を持ってもらうために行動することだと思っています。
そして憲法価値を実現できる法律家、行政官を1人でも多く現場に送り出すことだと考えています。皆さんに心から期待しています。