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2013年2月

2013年2月 4日 (月)

第210回 立憲主義

法律家とは、憲法価値を実現する仕事です。
日本国憲法の価値である個人の尊重を実現し、一人ひとりの人権が尊重される平和な社会を築き、そのための民主主義を発展させることを使命とした職業だと考えています。
弁護士などの法曹三者のみならず、司法書士や行政書士、行政官も含めて、法律を使って仕事をする者はすべて、この国の最高法規に従って職務を全うしなければなりませんから、当然に憲法価値を実現することを職責とすることになるわけです。

司法書士においても簡裁代理権が認められ、法律家として明確に位置づけられたからこそ、2003年から憲法が試験科目に加えられました。
先月発表のあった行政書士も単なる行政手続きの代理人ではなく、憲法価値を実現する法律家として市民の人権擁護のために仕事をするからこそ、憲法が重要な試験科目となっているのです。

憲法の本質は、個人の人権を保障するために、国家権力を制限するところにあります。
そこには立憲主義という人類の英知が凝縮されています。
人間はどんなにすばらしい人でも過ちを犯すことがある。そこで予め憲法で歯止めをかけておこうという人間に対する謙虚さの表れでもあり、極めて合理的な仕組みといえます。
いわゆる先進諸国においては常識の部類の考え方なのですが、これを正面から否定する憲法改正草案が自民党から発表されています。

2012年4月27日に決定されたものですが、インターネットで誰でもみることができます。
国防軍を創設する点などに目を奪われがちですが、この草案の最大の問題点は立憲主義を否定しようとする明確な意図にあります。
自主憲法制定を掲げて誕生した保守政党ですから、復古主義的内容を持つことや、米国からの要請に応えて対米従属、日米軍事一体化を進めようとする点も、その内容には反対ですが、理解はできます。

しかし、立憲主義という人類の英知に対してあまりに無頓着な態度にはあきれてしまいます。
具体的な問題点は法学館憲法研究所のホームページに掲げておいたレジュメを参照してほしいのですが、たとえば、前文で憲法制定の目的を国民の人権保障でなく、「国家を……継承する」こととします。そして国民に憲法尊重擁護義務を含めた10以上の義務や責任を課した上で、天皇の憲法尊重義務を削除します。
つまり、一方で国民には様々な義務を押し付けておいて、他方、天皇は憲法を守らなくてもよい、憲法を超越した存在にしようとするわけです。これでは憲法が「国民の人権を保障するために国家権力を縛るための道具」から、「国が国民を支配するための道具」に変質してしまいます。これは立憲主義の否定です。

立憲主義が国民に根付いて、その上で、さらに先に進むために立憲主義を乗り越えていこうというのなら理解できます。ですが、国民にも政治家にも未だ全くといっていいほど浸透していない立憲主義をこれが根付く前に否定し、近代以前の「お上は民のことを親身に考えてくれるのだから、黙って従っていればいい」という発想の憲法に変えてしまおうとするとは、情けない限りです。

2月11日は建国記念の日です。神武天皇がこの国を作った日だそうです。明治憲法時代を未だに引きずっているのです。そちらに戻るのか、それとも人類の英知をさらに進めようとするのか、法律家の意義が問われます。皆さんにも憲法を知ってしまった者の責任として、明確な強い意志を持って法律家、行政官を目指してほしいと思います。

(参考)
法学館憲法研究所 伊藤真所長「自由民主党『日本国憲法改正草案』について」
http://www.jicl.jp/jimukyoku/backnumber/20130131.html