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2014年12月

2014年12月 1日 (月)

第232回 目に見えないもの

昨年の参議院選挙に関する判決がありました。予想されたような違憲状態判決でしたが、今回は5名の補足意見が「投票価値の不均衡の是正は、議会制民主主義の根幹に関わり、国権の最高機関としての国会の活動の正統性を支える基本的な条件に関わるきわめて重要な問題であるから……国民全体のために優先して取り組むべき喫緊の課題」と指摘しました。さらに4人の裁判官が違憲違法とし、中でも内閣法制局長官であった山本庸幸判事は違憲無効判決を書きました。これまでも反対意見で無効を主張した最高裁判事は何人もいますが、投票価値の平等が唯一かつ絶対の基準であり、1.0となるのが原則だと明言しつつ無効というのは初めてのことであり画期的なことです。

人口比例原則を認める判事はまだ少数派ですが、確実に山は動き続けています。「衆参の違いはない」、「都道府県は憲法上の要請ではない」というかつては少数派だった考えが今は多数派になっているのと同じように、人口比例原則が今後多数派になると信じています。次の衆議院選挙は、衆参ともに2回の違憲状態判決が続いたにも関わらず抜本的な是正をせずに選挙をするのですから、違憲違法判決は避けられないでしょう。国会による司法軽視の態度にさすがに最高裁も我慢の限界かと思います。

この訴訟を通じて、私はこの国を人口比例原則が機能する民主主義国家にしたいと考えています。主権者は国会議員ではなく国民なのですから、国民の多数が国会議員の多数を選べるような制度でなければとても民主主義国家とはいえません。この問題を通じて、国会議員は選挙区や都道府県の代表ではなく、全国民の代表なのだという憲法上当然のこと(43条1項)が国民の間に共有されるようになると信じています。

民主主義も立憲主義も目に見えない価値です。法律家は具体的に目に見える当事者の不利益や困難を救済するために仕事をします。ですが、ときに目に見えないものを大切にすることがあります。当事者も自分が本当は何を望んでいるのか気づいていないときがあるからです。

企業の新商品開発においても、顧客にすら見えていない欲求に応えることができればその商品は大ヒット間違いなしです。「人は見せてもらうまで何がほしいかわからないものだ」というスティーブ・ジョブズの言葉は、iPodやスマホを見て初めてこれだと思った人には実感できるのではないでしょうか。どんな世界であっても、人の心の奥底が見える人が一流であり、達人なのです。気配りによって相手の真に望んでいるものを見つけることができる。目に見えないものを見ることができる。そんな本当のプロを目指したいものです。

私たちはこの国で真の民主主義も立憲主義もこれまで経験したことがありません。まだ見たことのない世界です。ですが、こうした目に見えない価値のために闘うことには意味があると思っています。当事者である個人や会社が本当に必要としていることを見つけてそれを実現するのと同じように、国家や市民社会が真に必要としていることを見つけてそれを実現するための努力を惜しまないことも法律家の仕事だと考えるからです。

こうして他者や社会という自分の外にある「目に見えないもの」を追い求めることも重要ですが、自分の中の「目に見えないもの」を意識して自分の内側にある大切なものに向かっていくこともまた重要なことです。合格という目に見える結果を追い求める過程の中でも、自分の幸せという目に見えない価値も意識しつつ努力を続けることが必要なのだと思います。それが結果的に社会の幸せの総量を増やすという目に見えない価値の実現にもつながることだからです。