法科大学院・司法試験・公務員試験・法律の資格の伊藤塾
真の法律家・行政官を育成する 「伊藤塾」 株式会社 法学館

伊藤塾携帯サイトからでも
ご覧になれます!

2017年3月 1日 (水)

第259回 家族と立憲主義

先月は、びっくりするような報道がいくつかありました。1つは、幼稚園児に教育勅語を暗唱させ、運動会の選手宣誓で「安倍首相頑張れ、安保法制国会通過よかったです」といわせる森友学園の話題です。用地取得に関する問題もさることながら、こうした教育を支持する親が少なからずいるということにも驚きました。

2006年、第1次安倍内閣のときに教育基本法が改正され、家庭教育の項目が新設されました。保護者が子の教育に第一義的責任を有すると規定され、国や自治体に家庭教育の支援施策を講じるように努力義務を課します。これを受けて、先月24日には家庭教育支援法案が自民党内の了承手続きを終えたようです。基本理念は道徳的なものばかりで、よい家族の形を押し付ける考えがその背景にあるように思われます。戦時中の1942年にも、家庭の教育力の低下を理由に、国が家庭教育に介入するために「戦時家庭教育指導要綱」が作成され、家族主義が強要されました。

家族を大切にとか、家庭教育を重視しようと言われると、これに反対するのはむずかしそうです。2012年の自民党憲法改正草案は、その24条1項において、「家族は,社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。」と規定します。これも当然のことを規定しているようにみえます。

しかし、考えてみると社会の構成要素は個人であって家族という団体ではありません。この規定は、個人よりも団体を基礎的単位としていること、国が個人の道徳、倫理に介入しようとしていること、これが社会保障費削減の口実となることなど、問題が山積みの規定です。

特に立憲主義との関係では、個人を家族の中に埋没させて、これを否定しているという点で、致命的な欠陥を持ちます。さらに立憲主義は様々な価値観の共存のための知恵なのですが、一定のライフスタイルを強制することにつながる点でも立憲主義の根本理念に反します。家族を保護する規定は世界の憲法や人権宣言にもありますが、それらでは、家族を国が保護すべきだという規定であり、家族の中で助け合えというものとは全く意味が違います。   日本では戦前、「家」制度を国が利用して、神権的国体思想を推進しました。このあたりのことは、マガジン9というwebサイトに書いているので、是非、読んでみてください(http://www.magazine9.jp/article/juku/31888/)。子どもたちは、親孝行の名の下に家長に従属することを強制されましたが、そうした家族の中では個人が否定されます。そして、国という家(国家)の家長である天皇への忠誠心を要求されました。全国を一家一族となし、皇室を宗家となすところの大家族主義です。大日本帝国憲法の翌年に教育勅語が発布され、天皇の支配が道徳の世界にまで及んでいったのです。   立憲主義は、個人の尊重を根本的な価値とします。その個人を家族の中で否定するのですから、教育勅語や「家」の尊重が立憲主義と相いれないことは明らかです。逆に立憲主義を否定したい人たちは、あえて個人主義を利己主義と同視して攻撃します。憲法を学んだ者として、家族を大切にという言葉の持つ“負の面”を忘れてはなりません。

もうひとつ驚いた報道は、アメリカでの司法の対応の速さです。トランプ大統領がイスラム7カ国の市民などのアメリカへの入国を一時禁止した大統領命令に対し、ニューヨーク州ブルックリンの連邦地裁が大統領令の効力を一部停止したほか、ワシントン州、カリフォルニア州などの連邦地裁がこの大統領令の執行を停止しました。憲法で学ぶ厳格な権力分立が実際に機能しているところを目の当たりにして、アメリカの底力を見た気がしました。

民主的に選ばれた大統領の命令であっても、憲法の観点から司法がこれにブレーキをかけるのです。民主主義と立憲主義の緊張関係がそこに見て取れます。もちろん、連邦制など制度の違いはありますが、それでもアメリカで立憲主義が機能している様子は、法律に携わる者には輝いて見えます。

実はアメリカの司法もこうした判断を下せるようになるまで、紆余曲折を経てきています。一朝一夕で立憲主義など形になるものではありません。市民も含めて、あらゆる立場の人々がその役割を果たすことで、ようやく実現するものなのです。法律家、行政官をめざす皆さんには、あるべき司法や国の姿を実現するためにそれぞれの役割を果たしてほしいと思っています。法律を学ぶということは、そうした責任を自覚することでもあるのです。

伊藤塾HOME 伊藤塾HOME プライバシーポリシー プライバシーポリシー サイトマップ サイトマップ 伊藤塾モバイル 伊藤塾モバイル 伊藤塾モバイル e-shop
Copyright © 伊藤塾/(株)法学館 1996-2012 All Rights Reserved.