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2017年4月 1日 (土)

第260回 花見と共謀罪

渋谷・伊藤塾前の桜並木も一年で最も美しい時期を迎えます。試験直前で、花見どころではないという塾生には、叱られそうですが、世の中はお花見の季節です。中には日ごろの憂さを花見で晴らしたい人もいることでしょう。ですが、花見に行って、同僚と盛り上がってしまうときは注意が必要です。

たとえば、ソフト開発会社の社員が花見の宴席で同僚と、「こんな会社辞めて、みんなでベンチャーを立ち上げようぜ」という話で盛り上がったとします。開発中のソフトが上司に握り潰されてしまったのが不満だったのです。これを完成させて販売する会社を作ろうなどと話をしている最中に、メンバーの1人がちょっと酒を買ってくると言って席を立ち、コンビニでお金をおろしました。すると突然、私服警官が現れて全員、逮捕されてしまったのです。皆、全く訳も分からず困惑するばかりですが、容疑は窃盗と不正競争防止法違反の共謀ということでした。

実は、同僚の1人が、原発に関する勉強会に出席したことがあったのです。セキュリティーソフトを開発するエンジニアとして、会場では原発へのサイバー攻撃について質問もしました。彼はそのときから潜伏捜査をしていた覆面警官に目をつけられていました。同僚とのスマホでの会話は盗聴され、メールもラインもすべて監視されていました。もちろん、花見の予定も警察は把握していました。幸い、彼らは逮捕されただけで起訴されることはありませんでしたが、この一件の後、原発勉強会の参加者は激減しました。

政府は、現在国会審議中の共謀罪はその適用を組織的犯罪集団に限定しているから、一般市民が対象になることはないといいます。ですが、これに該当するかは、警察が決めます。そういえば、戦前の治安維持法制定の際も、一般市民は対象ではないと説明されましたが、戦争はいやだという普通の人々が、国体を否定する思想だと決めつけられて逮捕、弾圧されました。対象犯罪をテロ対策に必要な277に限定したといいます。ですが、刑法では、窃盗、横領、背任、往来危険、傷害なども含まれ、会社法、不正競争防止法の中のいくつかの犯罪も該当します。犯罪計画だけなく、準備行為が必要だといいます。ですが、誰か1人がATMからお金を引出すだけでも該当します。捜査に関しても、2016年5月の盗聴法改正によって、警察署の中で、第三者の立ち合いなしに広く一般市民を対象とした電話、メール、SNSなどの盗聴、監視が可能となりました。

これまで日本の刑事法は、実行に着手した者をその行為の法益侵害を招く危険性ゆえに処罰するのが原則で、陰謀、共謀を処罰するのはあくまでも例外でした。刑法では3つ、特別法を入れても23個だけです。それを一気に277も増やすというのです。これによって、行為の危険性ゆえに処罰するのではなく、内心の危険性によって処罰することになり、日本の刑事法体系が大きく変容してしまいます。しかも、罪刑法定主義の要請である構成要件の明確性を全く満たしません。捜査権限の濫用を招く危険が極めて高いとして、共謀罪に多くの刑事法学者や日弁連が反対するのは当然のことといえます。

政府は、テロ対策を口実にしますが、日本はすでに13ものテロ関連条約を締結していて、十分に対応できています。そもそも、アメリカなど共謀罪がある外国で、テロを防止できていません。テロ被害を避けるには、テロの標的にならないようにするか、テロの原因をなくす努力をするかしかありません。ところが、安倍政権は、イスラムを敵視する米国のために闘う安保法制法を成立させました。あえてテロの標的になる危険を招く法律を強行採決しておきながら、テロ対策のために共謀罪が必要だというのはまるでブラックジョークです。

国際組織犯罪防止条約の批准のためとも言われますが、これが理由にならないことは日弁連はじめ法律専門家が明らかにしています。このようにテロ対策に必要だとか、ましてやオリンピック開催に必要だなどという理由を挙げられると、ホルムズ海峡や赤ちゃんを抱いた母親のパネルを使って集団的自衛権が必要だと言い放った安倍総理の姿を思い出してしまいます。

自民党は、2012年の憲法改正草案で、国防軍を作り、当たり前に戦争ができる国にすることを明確なゴールとしています。今さら目的をごまかす必要はありません。戦争できる国づくりの過程で必要なのだときちんと国民に説明すればよいのです。2013年秘密保護法制定、2014年集団的自衛権行使容認の閣議決定、2015年戦争法制定、2016年盗聴法拡大、そして2017年の今年、共謀罪成立をめざすというわけです。見事に筋が通っています。

いつまでも、楽しく安心して花見ができる日本であり続けたいと思います。だから共謀罪が必要と考えるか、むしろ有害と考えるか、私たち一人ひとりにかかわる問題です。皆さんはこの日本をどのような国にしたいですか。私は、人権擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士として、反対の声を怯むことなく上げ続けたいと思っています。

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