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2017年10月 2日 (月)

第266回 ゆっくりいそげ

9月27日に参議院選挙無効裁判の最高裁判決がありました。合憲判決、完敗でした。最大較差が5倍だった2011年の参院選と、4.77倍だった2013年の参院選に対しては過去2回、違憲状態判決だったのですが、今回は2つの合区を含む3.08倍の選挙区割りを合憲としました。

これまで最高裁は、都道府県単位の選挙制度を見直すことを強く求めていたのですが、今回は、都道府県の単位を用いること自体は不合理ではないとして、政治部門を批判する姿勢を変更しました。また、衆議院と比べて、参議院の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよい理由は見いだしがたいとしていた点も、何の理由もなく変更され、衆議院よりも後退している今回の選挙を合憲と判断しました。何か説得的な理由が語られていればよいのですが、何の説明もありません。

これまで5倍前後で推移していたものが3倍に格差を縮小させたのだから国会も頑張っているじゃないか、ということのようですが、理由になっていません。福井県の有権者に比べて、3分の1の政治的影響力しか持てない人が、埼玉、新潟、宮城、東京、神奈川、大阪、長野等あちこちにいるのに、これを著しい不平等ではないという最高裁の姿勢には驚きました。人格的価値において平等なはずの個人が政治的には一人前として尊重されていないのですから、憲法13条違反でもあります。

今回から島根と鳥取、徳島と高知が合区され、合区されていない地域との新たな差別も生まれたのですが、この点については、問題点の指摘すらしていません。都道府県代表という観点から見ても不十分なこの制度に対して合憲というお墨付きを与えてしまったのですから、今後の参議院制度改革のスピードが遅くなることは確実でしょう。全体的に最大限、政治部門へ配慮した判決でした。残念です。

アメリカでも、1962年のベイカー判決が出るまで、選挙制度については政治的問題(統治行為)として裁判所は判断を避けていました。それが、この判決および1964年のレイノルズ判決で一気に変わります。民主制の過程で自己回復できない問題には、司法は遠慮する必要などないということから、選挙権や平等の問題に対して裁判所が積極的に違憲判断をし、権力分立の観点から政治部門の暴走へ歯止めをかけていきます。

ですが、連邦最高裁がその存在意義を示した判決を出すまで、50年はかかっています。民主主義の実現には本当に時間と労力が必要だということです。諦めずに問題提起し続けることで司法も社会も変わると信じるしかありません。裁判所は政治部門の判断を追認するために存在するのではありません。主権者国民が政治部門に委ねた憲法の枠組みに沿った国家運営がなされているのか否かを厳格に監視するためにその存在が認められているのです。今回も最高裁には自らその存在意義を否定するような判決は避けてほしかった。ですが、思うような結果がでなかったとしても諦める必要はないと思っています。何事も諦めない限り負けはないからです。

いつの時代にもその時代に必要な司法があるはずです。これまでもそれぞれの時代における、その時代固有の司法の役割、裁判官が果たすべき役割があったのだと思います。今の時代は、政治部門が憲法を尊重し敬意を払っているとは思えない状況にあり、政治部門内での抑制・均衡が機能不全に陥っています。これまでにないほどに立憲主義、平和主義、民主主義といった憲法価値が危機に直面しているともいえるでしょう。こうした時だからこそ、果たさなければならない司法の役割、裁判官の使命があるはずです。日本の司法にも、政治部門に対して強く、気高く、聳え立っていてほしいと心から願っています。

それにしても9年間、この裁判をやってきていますが、今回のように努力が報われないとむなしく感じることもあります。ですが、結果が保証されないことに対して、どこまで頑張れるかが重要なのだと思っています。安保法制についても裁判などやって負けたらどうすると批判されることもあります。ですが、選挙という手段で闘っても確実に勝てる保証などありません。そもそも結果が保証されて確実に勝てる闘いなど、政治、裁判、ビジネス、スポーツ等どんな世界にもありません。

受験勉強も仕事も普段の生活もあらゆることは、結果など保証されていません。未来はこれから、今を積み重ねて創っていくしかないからです。あるのは今だけです。過去に捕らわれ、未来を恐れて何もしないのでは、今を生きていることになりません。何事であっても、何があっても、慌てず、焦らず、諦めず、一歩一歩、目標に向かって努力を続けていくしかないのです。 「FESTINA LENTE、ゆっくりいそげ」を改めて自分に言い聞かせています。

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