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2018年5月 1日 (火)

第273回 民主主義と品性

朝日新聞のある論考で、品性と品行の違いを読み考えさせられました。「人間は少しぐらい品行は悪くてもいいが、品性は良くなければいけないよ」とは日本映画の名匠小津安二郎の言葉だそうです。刑法で学ぶ、「行為は客観と主観の統合体」という言葉が思い出されます。すべての人の行動は、どのような思いで何をするかが重要なのです。

昨今、品性が卑しいのではないかと思えるような、身びいきの蔓延、権力の私物化、見苦しい言い訳、言行不一致などがこの国の中枢で起こっています。財務官僚や自衛隊、自民党政治家らによる情報隠し、不祥事、不適切発言がこんなにも繰り返されることは今までありませんでした。国会に提示される情報に嘘があったのですから、国会がまともに機能しなくなるのは当然の結末です。国会には審議すべき重要案件が多くあるのだからといって、こうした問題を些細なことと過小評価する人がいますが、民主主義の基本がわかっていないようです。

ゴタゴタする日本のことなど全く眼中にないかのように、北朝鮮と韓国のトップが握手をして両国の未来をしっかりと語りあったようです。そもそも分断国家の原因を作った日本は、本来ならば重要な役回りを演じることができたし、するべきだったのに、国民の関心を拉致問題に矮小化し、今回の南北対話においても全くの蚊帳の外で、北東アジアにおいてなんの存在感を示すこともできていません。

朝鮮半島での南北和解、統一など夢のまた夢と考えていた人もいることでしょう。ですが、歴史はどんどんと前に進みます。昔ながらの軍事力に依存してものを言わせる国づくりから、そろそろ脱却しなければなりません。いつまでも19世紀、20世紀型の強い国をめざしていると、あっという間に取り残されるようです。

南北首脳会談ではパフォーマンスばかりで具体的な核廃棄に向けてのプランが示されていないと批判する声もありますが、それはトランプ大統領の手柄に取っておくつもりなのでしょう。少なくとも対話は始まりました。言葉による解決の糸口はできたのですから、素直にその一歩前進を喜ぶべきでしょう。3歩進んで2歩下がることがあったとしても、「ゆっくり急げ」です。核兵器、生物兵器、サイバー兵器などが生まれている現代においては、紛争解決に必要なものは軍事力ではなく対話なのです。

安倍首相は「対話でない。圧力だ」と言い続けました。対話を否定するその態度は、常に自分の考えが正しいという思い込みが原因のように感じます。昨年5月3日の改憲に向けてのビデオメッセージにおいても、「『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます」といっています。どんな問題でも議論の余地くらいはあってもいいと思うのですが、議論の余地すら認めないという言動に、いかに議論が重要で民主主義社会の根幹であるかを理解しようとしない品性が現れています。

立場の違う人々が、十分な情報に基づいてしっかりと本質的な議論をすることによって、双方とも気づいていなかったような、より高い次元での解決策や発想が見いだせるはずだという人間の知的営みへの敬意が感じられないのです。

民主主義は自分の考えとは異なる相手の話をよく聞くという態度、自分の考えが間違っているかもしれないという謙虚な姿勢が根底になければ成り立ちません。どんなに強い言葉で相手を批判したとしても、心の中ではそうした謙虚さが必要なのです。その意味では、当事者に品性が必要不可欠だと言えるのかもしれません。

公文書は私文書に比べて社会での信用性が高いから、刑法でも公文書偽造の方をより重く処罰しています。ところがその公文書が、重要な記録として必要なものなのに「そもそも作らない」、「これは公文書ではない」と言い張る、実は「あるのにない」と言い張る。挙句の果てに政治家の発言に合わせて改ざんする。こうした言動には官僚としての誇りや品性がまったく感じられません。これでは公文書への社会的信用は地に落ちます。

「自衛隊を憲法に書き込んで文民統制を働かせればいい」という主張を聞くこともあるのですが、日本は軍事力どころか通常の行政権すら民主的に統制できていないのです。現実を踏まえて、文民統制など夢物語だとしっかりと自覚するべきでしょう。

「この国民にしてこの政府」、「どんなすばらしい憲法もその国の国民以上にはなりえない」 こうした警句が指摘するように結局は国民次第ということなのかもしれません。民主主義とはすべてが国民自身に帰ってくる制度です。自分たちの品性がそのまま代表者に反映し、それが国の品格を決めてしまっているのかもしれません。自分の品性が卑しくなっていないか、常に自分自身を冷静に見ることを怠ってはいけないとつくづく思います。

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