真の法律家・行政官を育成する 「伊藤塾」 株式会社 法学館

2018年9月 3日 (月)

第277回 変化

1995年に伊藤塾を立ち上げ、最初の雑感で私が期待する法律家について書きました。今でも、その考えは変わっていません。ですが、そこに最近はもう一つ付け加えるべきだと思っています。それは変化に対応する力を持った法律家です。何を今さらと思われるかもしれませんが、変わらぬ社会などないからです。

私が弁護士になったころ、法学部生ならどこの大学でも一度は司法試験を考えたものです。中央大学、早稲田大学からの合格者が多く、慶應義塾大学は経済学部は有名でしたが、法学部は正直司法試験合格者の数では今一つの状況でした。それが現在、司法試験合格者数では慶應義塾大学法科大学院も慶應義塾大学も他の私大を圧倒しています。

慶應義塾大学は法科大学院が議論され始めたころに、どこの大学よりも先に私を学内のシンポジウムに呼んで話を聴いてくれました。受験指導をしている私を敵視することもなく、法科大学院がどうあるべきかを謙虚に真剣に考えるためにしっかりと受験の現状を知ろうとしてくれました。憲法の小林節先生などは憲法9条の考え方に違いがあるにも関わらず、私を大学院の演習の講師として8年間も呼んでくださっただけでなく、法学部法律学科1年生全員が必修となっている憲法の授業の貴重な1回を使って、毎年私に「法曹への道」という講義をさせてくださいました。受験指導を色眼鏡で見て実態も知らずに批判ばかりする大学教授が多い中で、慶應義塾大学の先生方の対応は異色でした。

司法試験の制度が変わる、大学も変化する。よいものは取り入れる。伝統を重視しながらも変化に対応してきた慶應義塾大学は、法曹養成の世界では圧倒的な実績を出すことに成功したのです。変化に対応できたよい例だと思います。大学も企業も変化に対応できたところは成功しています。法律実務家の世界でも同様です。弁護士の仕事の仕方も変わりました。多くの論文や判例を覚えていて豊富な知識がある人が評価される時代から、ネットなどを活用して必要な情報を迅速に収集し、それをいかに効果的に活用することができるかが求められる時代になりました。

さらに、人工知能の時代になればより一層、柔軟な思考によって変化に対応して仕事の仕方を変えていけるかが求められるようになるでしょう。一度決めたら変えられない人や会社、組織、職業などは、どんどん淘汰されていくに違いありません。国も同じです。

沖縄県知事選が注目されていますが、辺野古新基地建設問題は依然として大きな課題です。本土と沖縄の間に刺さっているトゲのようなものです。1960年代後半の米軍海兵隊新基地建設構想が今蘇り、日本国民の税金で米国の軍事要塞が建設されようとしています。米軍駐留経費の約75%を日本が負担しているといわれますが、冷戦を前提にした日米安保体制が永久に変わらないという前提があるようです。辺野古では軟弱な海底地盤や危険な活断層も見つかりこれまでの計画では進められないことがわかっても、基地建設を強行しようとしています。時代も変わり、日本を取り巻く安全保障環境も変わり、自然環境への対応も変わっているにもかかわらずです。人々の価値観、近隣諸国との関係性も変わるのですから、いつまでも過去に囚われていては未来がないと思うのですが、変われないようです。

私は中学時代に2年間ほどドイツで生活をしました。当時の西ドイツにいましたが、ベルリンにも行ったことがあります。高い堅牢な壁によって分断されており、自分が生きている間にはこの壁はなくならないだろう、ドイツ統一もまったく見えないし、東西冷戦などけっして解決しないと思えました。ところが1989年12月ベルリンの壁は崩壊しました。自分にとってはあり得ない変化でした。あれだけ変わることがないと思っていたものが大きく変化した経験は私の中では貴重な教訓になっています。変わらぬものなどない。人間同士と同じく国同士の緊張関係も変化するものだと確信したのです。近隣諸国との関係を従来の価値観に囚われていつまでも変わらないものと思いこむ愚かさを実感したのです。

冷戦の終結によって仮想敵国であったソ連が崩壊したのですから、当然に自衛隊の任務も米国の軍隊も変化し縮減するだろうと思っていました。そうしたらまた新しい敵を想定してさらに増殖し始めたのです。こういう変化の仕方もあるのかと感心しました。組織を維持することが目的であればそれは正しいことなのでしょう。しかし、軍事組織も手段にすぎません。組織防衛に走りその存続が目的となってしまったのでは本末転倒です。

そういえば、来年度予算概算要求で防衛費が5兆3000億円にのぼり過去最大だそうです。安倍政権になって増え続けていますが、GDP比2%つまり11兆円まで増やそうというのですからまだまだ足りないのかもしれません。電磁波による健康被害も懸念される地上イージスや最新戦闘機など巨額な武器購入経費が膨らんでいるようです。立派な武器を持っていれば安心という時代遅れの発想に驚きます。感覚としては大艦巨砲主義に陥って敗北した過去から何も学んでいないように思えます。軍事の専門家だけでなく政治家もソフトパワーへの移行という発想の変化についていけないのかもしれません。

他方で教育へまわす予算はOECD参加国中で最低といわれます。地上イージス2基2352億円あれば月3万円の給付型奨学金が65万人分まかなえます。このまま教育への投資を怠っているとますます優秀な研究者が海外へ流出し、国民・市民の基礎学力が低下し、高価な武器を使いこなすことができる自衛官がいなくなってしまうことに気づかないのでしょうか。外国人留学生や研修生を手厚くフォローし、在留外国人の子どもたちへの日本語教育を充実させ、日本のよき理解者を増やすことが、一番の安全保障のはずですが、まったく逆へ向かっているようです。

変化に対応できずに絶滅していった恐竜や、時代に対応できずに淘汰されてしまった大企業は数えきれないほどあります。大きさや力の強さが生き残りを決めるのではありません。変化に対応できるか否かなのです。国家も同様です。本当の愛国心とは何かを考えさせられます。公務員を目指す塾生も、法曹を目指す塾生も、自分の中の価値基準をしっかりと持ちつつ、時代に対応して変化できる柔軟性を併せ持つことを目指してください。期待しています。

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