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2020年7月

2020年7月 1日 (水)

第300回 伊藤塾創立25周年を迎えて

伊藤塾は開塾してから今年で25年を迎えます。これまで大変なことも多々ありましたが、何とかここまでこられました。自分と一緒に頑張ってきてくれた仲間をちょっとだけ褒めて上げたい気持ちです。そして現塾生の皆さんと、これまで伊藤塾を学舎として苦楽をともにしてくれたこれまでのすべての塾生の皆さんに感謝します。今回は少しだけ自慢が入ることをお許しください。

「この世に生き残る生物は、激しい変化にいち早く対応できたもの」これはダーウィンの言葉として伝えられている有名なフレーズです。

本当にダーウィンがそう言ったのかはかなりあやしいのですが、進化論を唱えたダーウィンの言葉と言われても違和感がないので広く語られているのでしょう。確かに、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」と言われると、大きさや力や頭の良さが重要なのではない、変化に対応できる柔軟さが大切なのだと、少し救われた気になったりもします。

経営者が好んで使うフレーズですし、政治家もときどき使います。人を励ますときにも使うことがあります。弁護士が増えて仕事がなくなると心配する人がいたときにも、この言葉が効果的でした。事実、業界の過去のやり方に捕らわれず、変化を恐れずに様々な工夫をこらして依頼者のニーズに応えている弁護士は若手でも成功しています。

社会が変わったにもかかわらず、従来どおりで行こうとすると、大きな痛手を受けることもあります。河井議員夫妻の逮捕などは、選挙のあり方を変えられなかった結果ともいえます。地方議会議員との関係や、当選させるために党本部から破格の金銭を提供する自民党の体質を変えられなかったということです。それは公職選挙法の問題でもあり、同時に有権者の意識の問題でもあります。一人ひとりの主権者が、金権政治や情実選挙に拒否反応を示すようになれば、お金をバラまくような選挙運動のやり方も減っていくはずです。

他方で、「べからず選挙」と揶揄されるほど規制だらけの選挙運動しか許されない公職選挙法も検討しなければなりません。そして立候補するための供託金制度も、男子普通選挙が生まれた1925年に無産階級からの立候補者が増えては困るということで、治安維持法と並んで導入されたものです。いまどき300万円も準備しないと立候補すらできないという選挙の仕組みが健全とは思えません。こうした制度自体も変えていかなければならないと思っています。

現在、東京では都知事選のまっただ中です。新型コロナの感染者数がなかなか減らない中での都知事選挙ですから、候補者にとっても、これまでとは違った選挙運動をどれだけ展開できるか、政策や運動方針などについてどこまで新しいものを訴えられるかも重要なポイントだと思うのですが、なかなか盛り上がりません。都知事選挙は、大統領制をとる日本の地方自治制度の下で、住民が行政の長を直接選出するのですから、アメリカ大統領選挙と同じなのだという感覚を都民が持てば少しは違うと思うのですが、議員の選挙と同じような扱いで報道されるのは残念です。ただ、それにしては選挙運動期間が短すぎるともいえます。

都政や国政などの政治もそうですが、変えるべきことは迅速に変えていく。変化によって持続可能性を担保することはどのような組織にとっても重要なことです。伊藤塾も今年創立25周年を迎えることができました。1995年の5月3日に会社設立をし、「伊藤真の司法試験塾」として6月19日から講座の申込みの受付けを開始しました。そのときに私もそれまで行ってきた指導方針を根本から変える全く新しいメソッドを必死で開発しました。板書を使わず、Mac(当時は作図はMacしかうまく行えませんでした)を使って図表を作成し予め配布する講義の形や、個別指導としてのゼミを全員に実施するなど工夫をこらしました。寝る間もない毎日でしたが、変えるということは新しいものを生み出すということでもあり、産みの苦しみと共にわくわくする毎日でした。

その後の25年間も新しいことへの挑戦の連続でした。東京校の隣にあるインフォスタワービルの広いフロアを使っての700人以上の塾生へのライブ講義や、通学と同一料金の在宅受講システムの構築は当時相当勇気がいることでした。2004年に日本で初めて講義のインターネット配信を始めたときは、回線などのインターネット環境がまだ整っていなかったので、かえって不便だとずいぶんと批判もされました。新しいことを始めようとすると、古いタイプの人々から常に批判が伴います。ときに誹謗中傷も受けます。ロースクール制度の開始時を含めて、これまで何度、伊藤塾の危機だとか終わったと言われてきたことか。ですが、変化し続けてきたからこそ、手前味噌ながら、現在までダントツの合格実績を上げ続けることができているのだと自負しています。

こうして変化することが重要だと実感しているのですが、同時に変えてはいけないものもあると思っています。世の中の流れを先取りして変化し続けることは、先が見えないだけに不安がつきまといます。他方で、迷いの中でも自分を信じて実行することで道が開かれることがあります。そこでは、その変化の大義が必要なのだと思います。変わらない理念です。

思えば、私も40年の受験指導の中で、常に変えてはいけない部分と変えるべきところを意識してきました。試験に合格するための手段・方法はその時代に合わせて最も効率的なものを実践し伝えてきましたが、法律家や行政官になるための「意味を伝える」という核の部分は変えずにきました。

たとえば、司法試験で民訴・刑訴が選択制だったときから、伊藤塾では両訴で講義をしていました。法律家になる以上は、両訴訟法を理解することが必要だと考えたからです。目先の合格よりも実務家になってからの活躍に主軸を置いて受験指導してきました。その結果、むしろ短期合格者をより多く輩出することができたのです。両訴訟法を比較しながらの学習することができ、かえって試験対策としても効率的で有効だったということです。

明日の法律家講座やスタディツアーなど合格後を考えるプログラムも創立時から継続してきたものです。一見、目先の試験合格には無駄のように見えますが、合格後を考えることがモチベーションの維持につながり、こうした伊藤塾独自のプログラムも合格実績の向上に大きな役割を果たしてくれたのです。

司法書士試験では試験科目にまだ憲法が入っていなかった時代から、伊藤塾の司法書士講座では憲法の講義を行っていました。一部の受験生には無駄なことをやっていると見えたかもしれません。ですが、法律家としての司法書士にとって、たとえ試験科目になくても憲法の理解は不可欠だと考えたからです。その後、司法書士にも簡裁代理権が付与され、法廷でバーの中に入ることができる法律家になると共に憲法が試験科目に導入されました。

こうして伊藤塾では、あるべき法律家像を具体的にイメージしてそれに向けての教育を続けてきました。単なる効率だけの短期合格ではなく、合格後を考えて社会に貢献できる法律家・行政官になるにはどうしたらよいかを常に考えてきたつもりです。そんなことは綺麗ごとにすぎないという人もいます。ですが、その綺麗ごとが結果的に短期合格者をどこよりも多く輩出する圧倒的な合格実績を生み出してきたのです。

そして何よりも、法律家は綺麗ごとにすぎないと言われるような価値を具現化する仕事です。自由、正義、公正、公平、納得、思いやり、共感など綺麗ごとと一蹴されるような価値を諦めずにいかに実現するかが使命だと思っています。ですから、そうした仕事に向けての教育機関がこうした法律を学ぶ意味を見失ってしまったら、存在意義がないとすら考えています。

こうしてぶれない理念を柱に据えてきたからこそ、予備試験が始まってから8年連続、毎年最短の1年合格者を輩出するなどの実績を結果として生みだし、塾生第一を考えて実践してきたからこそ、安定した短期合格のメソッドを確立できたのだと思っています。

こうした挑戦のための変化と変わらぬ理念は、どのような分野でも必要なことですが、その実践は容易ではありません。その過程で様々な困難に直面して修羅場を経験します。ですが、それを乗り越えるとそれが大きな自信につながるのです。慢心や思い上がりではなく、真の自信です。塾生の皆さんも今年の試験は本当に大変だと思います。毎日、不安の中で勉強を続けていても、これを乗り越えれば大きな自信を得られます。それは法律実務家になった後に必要なものです。

コロナ禍の中での勉強は様々変えなければならないこともあるでしょう。勉強時間や場所の確保、メンタルの安定、ストレスコントロールなど必要に応じて自分自身を変化させていかなければならないことも多々あると思います。

伊藤塾でもコロナ対策でしばらくライブクラスはWebに切り替えていました。緊急事態宣言の解除に伴ってライブクラスを再開しましたが、実際に校舎に来る塾生はわずかです。塾までの通学時間がもったいないという理由だけでなく、Web講義で全く遜色ないことを体験してしまうと、通学に戻る必要性を感じないのかもしれません。

学習形態として通学にこだわるのではなく、Webが自分にとって最適な学習方法であると判断したならば、それでいこうと考えることは柔軟な思考であり、それも小さな一つの変化として肯定的に受け止めることができます。

実際の試験でも、司法試験や予備試験は3か月延期になりましたし、司法書士試験も延期になっています。国家公務員総合職試験に至っては延期と共に論文試験がなくなりました。そして試験の実施前に事実上の官庁訪問が始まっています。行政書士試験も第2波の関係では延期の可能性も否定できません。このような中で初めて経験する試験対策ですから、これに柔軟に対応するために、勉強でも変えるべきところは多いはずです。

しかし、他方で、変えてはいけないところを明確に意識する必要があります。それは、言うまでもなく、盤石な基礎と問題を解く・書くという地道な訓練です。この盤石な基礎と地道な訓練は法律実務家になるための王道です。目先の試験合格だけではなく、合格後に活躍することを考えたときの王道なのです。こうして法律の世界では、身につけるべき勉強内容は王道を行くが、勉強環境は柔軟に考えて良いのです。

さて、伊藤塾も25周年を迎えて、変えるところと変えないところのメリハリをさらに大胆につけていきます。これまでの教室での学習からWeb中心の学習に5年ほど前から変化させていますが、これを一気に加速させようと思っています。教室に塾生を集めて目の前の塾生だけにライブ授業をする時代ではありません。名古屋、仙台では新しいかたちの伊藤塾の拠点を設けて地域の受験生の支援をしていますが、これを全国に広げていきます。東京、関西の校舎の役割も変えていきます。

他方で、理念は頑固に変えません。塾の核になる考えは、「合格後を考える」、「ゴールからの発想」、「憲法価値を実現できる法律家・行政官の育成」、そして「個別指導」ですが、これらは変えません。これまで行ってきたゼミなどの個別指導をさらに充実、発展させていきます。徹底的に効率的な学習をする中で、自らが学び、成長する意味に気づくことができる塾であり続けたいと思っています。進化し続ける伊藤塾です。そして変化する社会の中で新たな価値を生み出し続けることができる法律家・行政官を1人でも多く送り出していきます。今後ともよろしくお願いします。