公務員志望者のための経済知識講座(3)~論文試験や仕事に役立つ経済知識~
これから定期的に公務員の試験や仕事に役立つ経済知識について説明していきたいと思います。今回のテーマは、前回の続きで、以下になります。
テーマ1 望ましい経済のしくみとはなにか〜新自由主義(市場原理主義)とはなにか〜
前回は修正資本主義及び福祉国家について説明しました。そして社会を豊かにしていくためには、市場経済による国民の自由な経済活動と市場で生じる問題を解決する政府(公務員)の役割の重要性について説明しました。そしてこの福祉国家にも問題点があり、1980年代ごろに新自由主義(市場原理主義)という考え方が現れたことまで説明しました。
まず福祉国家の問題点について説明します。戦後イギリスでは、べバリッジ報告で国民に「ゆりかごから墓場まで」政府が国民の豊かな生活を保障するという方針を打ち出しました。これが福祉国家の典型的な考え方です。しかしこの充実した福祉政策は、大きな政府をもたらし予算の増大と市場への過大な負担をもたらし、経済を疲弊させることになりました。イギリスは、戦後の豊かな財源を多くの福祉政策に充てましたが、石油ショック等で経済不況が生じると財源が不足し、また福祉政策を支える税負担を避けるために多くの企業や資本が海外に流出し、イギリス経済を衰退させることになりました。
このような状況下、1980年代に新自由主義(市場原理主義)思想が台頭してきます。この新自由主義(市場原理主義)は、政府の市場への介入を最小限に抑え、市場経済の機能を最大限に発揮させるべきであるというものです。このような考えは、そもそもイギリスの産業革命当時にアダムスミスが提唱したものであり、市場経済への最大限の信頼に由来するものです。イギリスでは、サッチャー政権が福祉政策は維持しつつも、民営化や規制緩和、税制改革等により市場経済のメリットを最大限に生かそうとしました(サッチャリズム)。これらの政策は、イギリス経済の停滞の原因を取り除き、その後のイギリス経済の復活をもたらしました。しかし失業率や貧困の増大をもたらすことになりました。同時期にアメリカでは、レーガン大統領が規制緩和や減税等のレーガノミクスとよばれる同様な経済政策を実施しています。また日本でも中曽根政権が、規制緩和や国鉄の民営化等の同様な政策を実施しました。これらの新自由主義に基づく政策は、各国の経済を活性化させ、その後の経済成長に貢献しましたが、失業率や貧困の増大等の問題も生じさせました。
以上のように過剰な福祉主義は、後に過剰な自由主義(市場原理主義)をもたらすことになりました。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という言葉があるように、いずれにしろ行き過ぎた思想は望ましくない結果をもたらすことになると思います。
望ましい経済のしくみとはなにかをテーマに、これまでの歴史と経済思想ついて説明しました。これを踏まえて、何が「望ましい経済のしくみ」なのか、私なりの結論を次回に説明したいと思います。
伊藤塾講師 青野 覚