「あなたはどのような行政官になりたいですか」というのは、面接でもお決まりのフレーズではないだろうか。折角いただいたブログへの寄稿という機会を通じて、今日はこのことについて改めて考えたい。
「行政官として働く」ということは、評論家として意見を述べることではなく、様々な意見が乱立する中で実際に行動し、変化を起こすということである。これはありふれた表現かもしれないが、私が所属する文部科学省の所掌分野である「教育」行政においては特に当てはまることではないだろうかと感じている。
全国民の誰しもがあらゆる形態で「教育」を受けてきた以上、その一人一人が「教育のあるべき姿」を持っている。「学校はもっと○○であるべきだ」「□□を小学校から教えないといけない」「大学なんて行っても意味がない」など、それぞれのポジションやバックグラウンドから生まれる評論家的意見は枚挙に暇がない。
では、そのような意見を全て無視し、既存の教育システムに全面的に依存することが合理的かと問われると、全くもってそうでないことは自明であろう。「変革する社会に対応するための教育とは?」「子供たちが安心して通うことができる学校とは?」、様々な問いに対し、評論家的に物事を語るのではなく、乱立する意見の中から最適解を創り出し、変化に向けた第一歩を踏み出す。これが、行政官として必要な気構えなのではないだろうか。
私は一年間、小学校に勤務したことがある。一年間学校現場で勤務して感じたのは、「現場」のリアルだ。派遣されるまでは義務教育改革や英語教育改革に携わっていたのだが、そこで語っていた理想を実現することの困難さを、これでもかというほど思い知った。Society 5.0やら、グローバル社会の到来やらを議論していた私は果たして、単純な計算問題を解けずに涙するあの子に何をしてあげられただろうか。人間関係に悩み一人で教室に入れないあの子に何をしてあげられただろうか。
あの一年間は、子供たちや学校の先生、地域の方々と共に生活し、人生で一番楽しい一年間であったと思っているが、それと同じくらい、悩みに悩んだ一年間であったと言えるかもしれない。
そうした中で、先述したように「変化を生み出す」ということは、「いかに現場へ政策を届けるか」ということだと最近考えている。よく批判されるように、とかく霞が関の政策は、霞が関・永田町で完結してしまっているものが多い。「法律を変える」「予算を獲得する」など、国家公務員として取り得る政策手段は様々あるが、それらの政策は最終的に現場へ届かないと意味がない。
例えば現在議論されている教員の働き方改革において、教員の勤務時間に関するガイドラインを作成することで残業時間を制限するという話が出ているが、ガイドラインで残業時間を制限したからといって、一律に教員の残業がなくなり働き方改革が完結するかといえば決してそうではない。もし教員の残業時間に関するガイドラインが作成されたとしても、教育委員会や学校の管理職が趣旨を理解するとともに、ガイドラインを遵守するよう働きかけないといけないし、そもそも残業が出ないよう教員の仕事そのものを見直さなければならない。「ドリルを買う人はドリルではなく穴が欲しいのである」と言われるのと同様に、教員は我々に制度改正や予算措置をして欲しいのではなく、まさに彼らの目の前にある業務を減らすこと等を通じて働き方を改革して欲しいのである。
「現場に投げて終わり」となる政策は存在しない。法改正や予算措置等の政策が実施されてから、現場に届くまでのグランドデザインが描かれてこそ、その政策に意味があると言えるのではないだろうか。
以上の話は私から皆さんに対して偉そうに講釈を垂れるというものではなく、私の「行政官としてのありたい姿」であり、日々忘れそうになりながらも、常々自分に言い聞かせているものだ。もしこの話を読んで、共感でも違和感でもいいから何かしら感じていただき、あなたの中にある「行政官としてのありたい姿」を構築する一助となれば幸いだ。
最後に、この記事をここまで読んでいるということは、あなたは国家公務員に対して少なからず興味を持っていただいているのだろう。官僚批判が続くこの時代において、「国家公務員って、いいかも」と思っていただいたということにまず敬意を表したい。
「忙しくて自分の時間がない」とか「給料が低い」とか、「結局やりたいことができない」など、様々な批判がある中で、それでも私がこの職を(まだたった4年ではあるが)続けているのは、最前線で国家的課題と向き合えるということのやりがいだろう。やりがい搾取だと言われてもいい。自分の働き方は自分で決めるこの時代において、私はこの職を積極的に選んだのだ。国家公務員の働き方改革を進める必要があるのは前提としつつ、今のところこの職を選んだことに後悔はない。最終的にどんな職へ就くことになるにせよ、この最後まで読んでいただいたあなたも、まわりに流されることなく後悔のない意思決定ができることを、心から祈っている。
注)個人的考えに基づくものであり、組織を代表するものではありません。
現役行政官 文部科学省 4年目