
みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。
現在,2020年の受験生の皆さんを応援するため,8/5(水)~8/16(日)にかけて,この講師ブログで私と北谷講師による「2020年講師ブログ特別夏期講習」を実施しており,私のパートでは,普段の学習で手が行き届きにくい分野を解説しています。
今回は「会社法:社債」を取り扱います。なお,社債は株式会社だけでなく,持分会社も発行することができますが,ここでは株式会社における社債に絞った説明を行います。
1 募集社債の発行
⑴ 意 義
募集社債とは,募集に応じて社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。
〔補足〕 募集株式の社債版というイメージである。
⑵ 募集社債に関する事項の決定
⒜ 決議機関
募集社債に関する事項(e.g.募集社債の総額,各募集社債の金額)の決定は,取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)によって行う(348条2号)。
〔趣旨〕 募集株式の発行と異なり,「持株比率維持の利益の保護」及び「1株当たりの経済的価値の保護」を考慮する必要がないため,株主総会で株主の判断を仰ぐ必要がないのである。
⒝ 委任決議
取締役会設置会社では,募集社債に関する事項の決定を取締役に委任することができるが,募集社債に関する事項の中でも重要な事項(e.g.募集社債の総額の上限)は取締役会決議で定めなければならない≪確認問題①≫(362条4項5号)。
〔趣旨〕 社債の実態は一般公衆からの資金の借入れであり,今後の会社の事業活動に影響を及ぼすところ,重要事項については取締役会での審議を通じて慎重に決定するべきだからである。
⑶ その他の発行手続 ~募集株式の発行と募集社債の発行の相違点~
募集社債の発行は,募集株式の発行と類似するところ,募集株式の発行と同様の規制が設けられているため,基本的には募集株式の発行の場合と同様に捉えた上で,次の相違点を押さえよう。
① 募集社債の申込者は,払込みをする債務と会社に対する債権とを相殺することができる≪確認問題②≫。
〔比較〕 募集株式の発行の場合,出資を履行する債務と株式会社に対して有する債権を相殺することができない(208条3項)。
② 募集社債の発行において,検査役の調査を必要とする規定はない。
〔比較〕 募集株式の発行において,現物出資の場合,原則として検査役の調査が必要となる(207条)。
2 社債管理者と社債権者集会
⑴ 総 説
社債の実態は一般公衆からの資金の借入れであるところ,社債権者を保護する観点から,社債権者が共同の利益のために団結して行動できるようにするため,社債管理者及び社債権者集会の制度が設けられている。
〔補足〕 会社に代わって社債原簿の管理を行う者(社債原簿管理人)を定め,その事務を行うことを委託することができる≪確認問題③≫(683条)。なお,株主名簿管理人と異なり,社債原簿管理人を定めるに当たり,定款の定めは不要である。
⑵ 社債管理者
⒜ 意 義
社債管理者とは,社債を発行する会社から,社債権者のために社債の管理(e.g. 弁済受領や債権保全)の委託を受けた者であり,社債権者の取りまとめとしての役割を担う。
〔補足〕 社債管理者は社債を管理する立場にあり,債権を管理する能力が求められるため,銀行や信託会社等でなければならない(703条)。
⒝ 権 限
社債管理者は,社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け,又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(705条1項)。
⒞ 社債管理者の要否
社債を発行する場合,原則として社債管理者を定めなければならないが(702条本文),①『各社債』(一口)の金額が1億円以上であるとき,又は②社債権者の数が50人未満であるときは定めることを要しない≪確認問題④≫(702条但書,施規169条)。
〔趣旨〕 社債管理者は一般公衆の社債権者の取りまとめとしての役割を担うところ,社債権者が大口の投資家である場合,又は社債権者が公衆といえないほど少数の場合は,社債管理者を定めて社債権者を保護する必要はないからである。
⒟ 利益相反の規定
社債権者と社債管理者との利益が相反する場合(e.g.社債管理者も社債発行会社に対して貸付債権を有している場合)に,社債権者のための行為をする必要があるときは,裁判所は,社債権者集会の申立てにより,特別代理人を選任しなければならない(707条)。
〔趣旨〕 この場合,社債権者の利益を損なうおそれがあるため,利害関係を持たない特別代理人にその行為をしてもらうのである。
⑶ 社債権者集会
⒜ 意 義
社債権者集会とは,社債契約の内容の変更等の社債権者の利害に関する事項について社債権者の総意を決定するための,社債権者の集会をいう。
〔補足〕 株主総会の社債権者版というイメージである。
⒝ 決 議
ア 決議事項
社債権者集会では,①会社法に規定されている事項,及び②社債権者の利害に関する事項について決議することができる(716条)。
〔趣旨〕 社債権者集会は,本来個別の債権者のみでは行うのが困難な事項を集団の力によって行うものであり,必要な限度で決議を行う権限を認めれば十分であるため,その決議事項が限定的に定められている。
イ 決議の効力
社債権者集会の決議は,裁判所の認可を受けなければ効力が生じない≪確認問題⑤≫(734条1項)。
〔趣旨〕 社債権者集会の決議は,社債権者に譲歩を強いる内容(e.g.支払猶予,債権の一部放棄)が多いため,裁判所に審査をしてもらう趣旨である。
今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。≪確認問題の正解はこちら≫

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