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2020年10月16日 (金)

2020年度本試験の不動産登記法を振り返る

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みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は、2020年本試験の択一式の不動産登記法の振返りとして,私なりの分析をお伝えします。難易度等に関しては,本試験問題分析会で話がありましたので,私からは今年の試験の特徴及び近年の試験の傾向から導かれる来年の試験に向けた勉強法を重点的にお話しします。

【1】 長文の問題への対応

近年の不動産登記法の問題は長文になる傾向にありますが,今年はそれが顕著に表れていた問題といえます(e.g.第14問「代位による登記」,第22問「処分制限の登記」)。問題文が長文になると難しくなるのが次の2点です。

⑴ 問題文を読むのに時間が掛かる

問題文が長ければ読むのに時間が掛かるので,読んだ上で判断する時間,又は多めに肢を検討する時間が削られてしまいます。その結果、ミスが生じやすくなり、点数が取りにくくなります。実際、今年の午後の部の択一式を解くのに70分又はそれ以上かかったという方も多いです。

問題文の読み取りを早くするために重要なのは、論点判断の材料となるキーワードに素早く着目することです。例として問題文の抜粋を用意しました。キーワードを赤字にしましたので、そこに注目してください。

■ 第22問ウ
「甲建物について,Bの抵当権の設定の登記請求権を保全するため,処分禁止の仮処分の登記とともに保全仮登記がされた場合において,当該保全仮登記に基づく本登記をすべき旨の本案の判決書の正本に記載の債務者の表示と,当該保全仮登記の登記記録上の債務者の表示とが異なるときは,当該保全仮登記の本登記をする前提として,A及びBは共同して当該保全仮登記の更正の登記申請することができない。」→○

もちろんキーワード以外を読まないわけではありませんが、キーワードに着目をした上でメリハリをつけて読むことで、問題文を読むスピードが格段に上がります。そして、このようにキーワードに着目できるようにするためには、普段の学習から論点のポイントとなるキーワードを押さえたうえで知識をインプットする必要があります。具体的には、普段テキストに目を通す際には、論点のポイントとなるキーワードに下線や丸を付け、そこに注目しながら読むようにしましょう。そうすることで、自然とキーワードに着目する癖をつけることができます。

⑵ 何の論点が問われているのかを把握するのが難しくなる

問題文が長文となると、事例が複雑になり、何の論点が問われているのかを把握するのが難しくなります。次のように、実際に解説を読めば知っていた知識だったものの、現場で判断できなかったものも多かったのではないでしょうか。

■ 第13問イ
「乙区1番賃借権の登記名義人であるA株式会社から賃借物の転貸を受けたBを登記名義人とする転貸の登記が乙区1番付記1号でされた後,Bの住所移転により登記記録上の住所とBの現在の住所が異なることとなった場合において,乙区1番付記1号転借権の登記の抹消を申請するときは,その前提として,Bの住所の変更の登記の申請をしなければならない。」→×

〔解説〕所有権以外の権利の登記の抹消を申請する場合には,申請情報の内容である登記義務者の氏名等が登記記録と合致しないときであっても,申請情報と併せて氏名等の変更又は錯誤若しくは遺漏を証する情報を提供すれば,前提として登記義務者の氏名等の変更又は更正の登記を申請することを要しない(昭32.6.28民甲1249号回答参照)。

このような問題に対応できるようになるためには、テキストの抽象的な記載から問題文の具体的な記載に変換して判断する、いわば「知識の変換力」が必要となります。そして、「知識の変換力」は、テキストの抽象的な記載と問題文の具体的な記載の行き来により、身に着けることができます。

すなわち,問題演習の際にマメにテキストに戻ることが大事です。問題演習の際に,正解できた問題に関してはテキストに戻らないという方も多いですが,それだと個別的な問われ方を押さえているだけで,本試験で角度を変えて問われたときに対応するのが難しくなるため,なるべく正解できた問題も含めてテキストに戻るようにしましょう。

なお、次の第19問オは,不動産登記法の出題でありながらも実際は民法の判例知識を問う問題でした。登記法の問題を解いていると、どうしても実体法の視点が抜けてしまいますが、この手の問題の判断にもコツがあります。午後の手続法の科目であっても、実体法の判例知識を問う問題には、問題文の冒頭に「判例の趣旨に照らし」という文言が付きます。そのため、この文言が出てきたら、「実体法の判例知識が問われている」ということを意識して問題を解くようにするとよいでしょう。

■ 第19問オ
「甲不動産の所有権の登記名義人であるAが死亡し,Aの法定相続人として配偶者B,子C及び子Dがいるときの相続による登記に関して,『Dが甲不動産を取得するが,DはBに対してBを扶養する義務を負担する』との遺産分割協議に基づき,Dを所有権の登記名義人とする所有権の移転の登記がされた後に,DがBを扶養する義務に基づく債務を履行しないときは,Bは,Dに対して債務不履行に基づく解除の意思表示をすることによって,解除を登記原因として当該所有権の移転の登記の抹消を申請することができる。」→×

〔解説〕共同相続人間において遺産分割協議が成立した後に,相続人の一人が他の相続人に対して当該遺産分割協議において負担した債務を履行しないときであっても,当該他の相続人は,当該遺産分割協議を解除することができない(最判平元.2.9)。

【2】 不動産登記法の難化傾向

近年、不動産登記法の難化傾向が続いていますが,その大きな要因となっているのが,未出先例(及びの登記研究の見解)の出題の多さです。

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今年は昨年に比べて未出先例等の数がやや減りましたが,直近で出された最新先例の知識を問う問題(e.g.第19問エ,第20問ア)や改正絡みの知識(e.g.第15問オ,第27問ウ)を問題もあったため,引き続き未出先例等は積極的に習得していく必要があるといえるでしょう

具体的には,答練等を通して未出先例等の知識及び改正絡みの知識を積極的に吸収するとよいでしょう。とはいえ、知識のインプットでも順序が大切なので、今年不動産登記法の正解数が10問以下だった方は、年内は既出の基礎知識のインプットに重点を置き、年明けから未出知識のインプットをするようにしましょう(11問以上の方は、昨年度の答練等を活用して、年内から積極的に未出知識のインプットをすることをお勧めします)。

いかがでしたでしょうか。今後の不動産登記法の学習指針を定める際の参考としてぜひお役立てください。

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2020年10月12日 (月)

2020年度本試験の民法を振り返る

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みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は、2020年本試験の民法の振返りとして、私なりの分析をお伝えします。今後、民法の学習指針を定める際の参考としてお役立ていただければ幸いです。

難易度等に関しては,本試験問題分析会で話があったと思いますので,私からは今年の試験の特徴及び近年の試験の傾向から導かれる来年の試験に向けた勉強法を重点的にお話しします。

 【1】 民法改正の出題

今年は民法(主に債権法・相続法)改正が初の出題範囲となる年であったものの,民法改正に関係する知識の出題は,次のようにそれほど多くはありませんでした。

① 第7問「不動産の物権変動」オ
② 第16問「保証人に対する情報提供義務」ア・イ・ウ・エ・オ
③ 第17問「定型約款」ア・イ・ウ・エ・オ
④ 第18問「解約手付」ア・イ
⑤ 第19問「消費貸借」ア・イ・オ

第16問と第17問は改正により新設された項目からの出題でしたが,それ以外は明文化の規定が問われているところも多かったため,今年の試験では改正の影響はさほど大きくなかったといえます。今年の出題がなかった分,来年は改正で大きく変更があった主要分野が狙われる可能性が高いといえます(e.g.時効,詐害行為取消権,契約不適合)。今後はより一層,相続法改正の対策を含めて,改正項目の学習に力を入れていきましょう。

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【2】 引っ掛かりやすい問われ方

今年の問題では,問われ方としては長文の問題も少なく,素直な問い方の問題が多かったですが,中には次のような引っ掛かりやすい問われ方の問題もありました。

 ① 第11問エ
「先取特権は,債務者がその目的物を第三取得者に引き渡した後はその物について行使することができませんので,Aの甲建物についての不動産保存の先取特権は消滅します。」→×

〔解説〕第三者への引渡しがあった場合に先取特権が消滅すると定める333条は動産を目的とする先取特権に関する規定であり,不動産を目的とする先取特権には適用がない。

② 第13問オ
「本件抵当権が実行されて甲土地が競売されたときであっても,その競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは,Cは,甲土地を買受人に明け渡すことを要しない。」→×

〔解説〕抵当権が実行された場合の明渡猶予を定める395条は抵当不動産が建物の場合に適用があり,抵当不動産が土地の場合には適用がない。

③ 第19問ア
「書面でする消費貸借契約の貸主は,借主に対して目的物を交付するまでは,契約の解除をすることができる。」→×

〔解説〕書面でする諾成的消費貸借における受取り前の解除権を定める587条の2第2項前段は,借主に解除権を認めるものであり,貸主に解除権を認めるものではない。

今回は肢の組み合わせの関係から,これらが正答率を下げる大きな要因とはなりませんでしたが,こういった引っ掛かりやすい問われ方の出題は,今年だけでなく,昨年(2019年)の問題でも見られた傾向です。こういったミスを「ケアレスミス」という認識で片付けずに,次のことを意識すると,上記のような問題にもしっかり対応できるようになります。

(1)制度趣旨から理解する

上記のような引っ掛かりやすい問われ方の問題は、単に知識で対処しようとすると反応しづらいため(「このような場合には適用がない」という知識の押さえ方を予めしておかないと対応できない),知識の制度趣旨にさかのぼって対応した方が効率的です。上記の①~③の問題を例にとって説明します。

① 333条は,動産上の先取特権は登記のような公示方法がないことから,取引の安全を重視して,第三取得者が譲り受けた動産の所有権を失うことがないようにしている。⇒不動産上の先取特権には適用がない。

② 395条は,抵当権の実行により競売がされて,出て行くまでに引越しの準備期間として,6か月の猶予期間を設けるものである。⇒建物の賃借にのみ適用があり,土地の賃借は対象外である。

③ 587条の2第2項前段は,書面でする諾成的消費貸借の成立後,実際に目的物が交付される前に,すでに目的物を借り受ける必要がなくなった借主側の事情を考慮して解除権を認めたものである。⇒貸主に解除権は認められない。

このように制度趣旨にさかのぼって対応するためには,普段の学習において制度趣旨から理解することが重要です。 

(2) 過去問から引っ掛けパターンを知る

例えば,上記②は,過去に平成24年第13問エにおいて,同様の出題がされています(下記の問題文を参照)。この問題から,目的物が土地か建物かで引っ掛ける出題パターンがあるということを把握することができるわけですが,過去問を解く際も,ただ〇×を付けるのでなく,このように出題パターンの類型(他にも根拠となる条文番号で引っ掛けるなど)を意識して学習すると,同じ知識に限らず,同様の手口で引っ掛ける問題が出されたときに対応しやすくなります

・平成24年第13問エ
「抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である土地を競売手続の開始前から使用する者は,その土地の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは,その土地を買受人に引き渡すことを要しない。」→×

いかがでしたでしょうか。今後の民法の学習指針を定める際の参考としてぜひお役立てください。

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2020年10月 5日 (月)

過去問解析を2021年本試験に活かす講義

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みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

今回は10/6(火)にYouTubeライブで実施予定である小山講師・関講師・私による「過去問解析を2021年本試験に活かす講義」のご案内です。

「過去問知識は絶対正解しなきゃいけない」
「過去問はできるだけ多く解くべき」
「過去問は問題集としてのみ使う」

こういった認識を改める必要のある時期、それが今です。
特に、今年は来年度の本試験まで例年よりも準備期間が短いわけですから、
過去問に関しても分量・取り組み方を見直す必要があります。

そこで、このイベントでは、
① 2020年本試験の問題から過去問知識の出題実績を割り出し、
② それに基づく過去問集への取り組み方を具体的に示し、さらに、
③ 過去の出題傾向から、今後重点的に押さえるべき分野をお伝えします。

①②では過去問学習で陥りがちな「単なる過去の問題を用いた〇×の確認」からの脱却を、
③では優先順位の把握による今後の学習の効率化を実現します。

2021年本試験に向けて、学習期間が例年より短いからこそ、例年通りの勉強を見直すべきといえます。
今回のイベントは過去問に真正面から向き合い、その効率を最大限に引き上げるものです。
これを知っておくかどうかで今後の学習効率が大きく変わります。ぜひご視聴ください!

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2020年10月 2日 (金)

学習再開に当たって~今後の学習指針~

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みなさん、こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

9月27日の本試験を受験されたみなさん、改めて、本当にお疲れ様でした。

本来であればもう少し休みたいところですが、今年は試験延期の影響を受け、例年に比べて来年度の試験までの準備期間が短いため、受験生の学習再開に向けた動きも例年より早くなっています。私もカウンセリング等を通して、すでに多くの方から今後の学習指針についての相談をいただいています。

今回は学習の再開に当たって押さえてほしい3つのポイントをお伝えします。

① 学習範囲をむやみに狭めない

来年の本試験までの準備期間が短いとなると、学習範囲を狭めてしまいたくなりますが、来年の本試験の試験範囲が変わるわけではない以上、受験生としてやるべきことは変わりません。学習すべき範囲を従来よりも狭めると、本試験問題に対応できる幅も狭まってしまうため、学習範囲をむやみに狭めないようにしましょう。

② 年内は「基礎の理解」に重点を置く

来年の本試験までの準備期間が短いとなると、直前期のような繰り返しのスピード重視の学習を年内のうちから行いたくなりますが、それだと知識の上辺を固めるだけになってしまい、根本的な実力が付きません。すなわち、「ただ繰り返す」だけの勉強では、大幅な実力アップが望めないのです。

仮に今回の本試験における失点の原因が発展知識の不足にあったとしても、今から発展知識だけを押さえればよいわけではありません。発展知識を定着させるには、「基礎基本」の磐石な土台の構築が前提となります。焦らず年内は「基礎の理解」に重点を置きましょう。ここでいかに確固たる基礎を築けたかが、年明け以降の点数の伸びを左右します。

③ 単年の試験の特徴にとらわれない

直近の本試験というのは印象に残りやすいもので、来年に向けた学習でも、その特徴に沿った対策の勉強を行いがちです。しかし、今後焦点を当てて学習すべきなのは“今年の本試験”ではなく、“来年の本試験”です。例えば、今年の民法において主要分野で改正知識を問う問題がそれほどなかったからといって、来年の出題もそうとは言えません。同様に、今年の不動産登記法において登記記録問題の出題がなかったからといって、来年の出題もそうとは言えません。

“来年の本試験”に向けた学習に当たり、大事なのは今年の本試験単年の試験の特徴ではなく、近年の本試験の傾向です。今年単年の試験の特徴にとらわれず、来年を見据えて試験傾向をお伝えする本試験問題分析会を活用して、これを踏まえて今後の学習を行っていくようにしましょう。

今回の記事は以上です。学習の再開に当たって、皆さんの参考になれば幸いです。

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2020年9月24日 (木)

試験は笑ったら勝ち

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9月27日の本試験まであと3日となりました。今回は、本試験当日の心構えについて話したいと思います。

本試験には魔物が潜んでいます。

「択一式の第1問目に個数問題」
「記述式の問題形式がいままで見たこともないような形式」
「見たこともない論点が出てきて1肢も分からない」

本試験ではこのようなサプライズが必ず起きるといっても過言ではありません。そこで大きく動揺してしまい、そのまま後の問題を解くと解けるはずの問題も解けなくなってしまいます。

このようなサプライズがあった時の対処法として最後に伝えたいのが「笑うこと」です。

サプライズが起きたら、「そうきたか」と無理にでもいいので笑ってしまいましょう。動揺を隠せず表情が硬くなると肩に力が入り、緊張してしまい、柔軟な発想ができなくなってしまいます。そこで無理にでも笑えば表情・精神ともに余裕ができ、落ち着くことができます。そうすれば柔軟な発想もしやすくなります。

また、「サプライズが起きたら笑う」という手順を事前に決めておくことで、サプライズを予想の範囲『外』から、あらかじめ予想の範囲『内』にすることができるのでサプライズによる精神的ダメージも事前に緩和することができ、効果は絶大です。
 
 「試験は笑ったら勝ち」

ばからしいと思えるかもしれませんが、この言葉を忘れずに本試験に臨んでいただけると嬉しいです。

そして、試験終了の1秒前まで決してあきらめず、最後まで問題に喰らいついていってください。最後までみなさんのことを応援しています。

伊藤塾司法書士試験科講師 髙橋智宏


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2020年9月20日 (日)

本試験当日をどう過ごすか

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本試験日の9月27日まであと1週間となりました。泣いても笑ってもあと1週間、最後まで諦めず、全力で駆け抜けましょう!

今回は、本試験直前のカウンセリングで聞かれることの多い、本試験当日の過ごし方と本試験時の気の持ち方についてお話ししたいと思います。

まずは大前提として、本試験当日の過ごし方は人それぞれです。絶対こうすべきというものがあるわけではなく、本試験当日に最大限のパフォーマンスが発揮できるならば、それぞれ好みによって当日の過ごし方は違ってよいと思います。

ただ、当日の過ごし方を決めずに本試験に臨むと、落ち着かず浮足立ってしまうので、どのように過ごすかは決めておきましょう。これから紹介していく本試験当日の過ごし方は、あくまで1つの例であり、まだご自身で決めかねているところ、不安なところについて参考にしていただければ幸いです。すでに当日の過ごし方を決めているのであれば、無理に変える必要はありません。

【1】試験開始までの過ごし方

本試験会場に向かう途中の電車やバスに乗っている間、あるいは試験会場入室後の試験開始までの間は、じっとしていても気持ちが焦るので、気持ちを落ち着かせる意味でも、教材を持って行き、軽く最終確認をするとよいでしょう。

ここでのポイントは、取り組む範囲を試験開始前に軽く終わる分量に調整しておくことです。何冊ものテキストを持って行っても、到底終わるわけもありません。試験開始前に確認する教材は苦手科目の1冊に絞って、かつその中でも覚えきれなかった箇所を眺める程度にしましょう。そこで確認した科目から優先して本試験問題を解くようにすると、直前に見た知識なので超短期記憶として対応できます。

なお、ここで体力を削られてしまうと、かえって本試験でのパフォーマンスが落ちてしまうので、ここでの教材の確認は流す程度にしておきましょう。

【2】昼休みの過ごし方

午前の部が終了した後の昼休みですが、ここで大事なのが「午前の部の結果を引きずらない」ことです。終わったことをあれこれ考えても意味がありません。ここで次の午後の部に頭を切り替えましょう。具体的には「午前の部の得点は基準点ぴったり」と思い込むことがお勧めです。そう思い込めば、「勝負は午後の部だ」と思えるようになり、午後の部に向けたモチベーションにも繋がりやすいです。どうしても午前の部を引きずってしまうという方は、音楽を聴いて気持ちを切り替えるというのも有効です。

また、この昼休みの時間に、午後の部に向けて教材の最終確認を行うのも有効です。ただ、昼休みも食事の時間を除けば、それほど時間は長くないので、ここでも軽く終わる分量に調整しておくことが必要です。具体的には、司法書士法を一通り復習する(範囲が狭いので昼休み中でもざっと確認できる)、あるいは記述式の間違いノートをチェックするのがお勧めです

【3】本試験時の気の持ち方

(1) 周りの受験生と比べない

本試験会場では周りの受験生が優秀に思えて萎縮してしまいがちですが、それはみんな同じです。周りの受験生から見てあなたもそう見えているはずです。

司法書士試験は相対評価なので、この試験は己との闘いかというと、試験の仕組み上はそうとも言い切れませんが、あくまで競うのは受験生全体という抽象的な相手であり、隣にいる受験生個人ではありません。周りは気にせず目の前の問題に集中しましょう。

(2) 理想点は満点じゃない

本試験になると実力を十分に発揮できず、普段は確実に正解できているようなAランクに位置付けられる問題を間違えてしまった、というのは受験生によく見られる現象です。その原因の多くが、他の受験生も間違って当然のような難しい問題(肢)に引っ張られてしまったり、問題文を深読みしすぎて単純な問題を落としてしまうといったものです。本試験になると確実に正解しようという意識が普段以上に働いてしまい、本来は解けなくてよい難しい問題(肢)を正解しようとするがゆえに、そちらに意識が行き過ぎて確実に正解できるはずの問題を落としてしまうのです。

すなわち、(無意識ながら)「満点が理想点である」という思い込みがあるわけです。実際に満点を狙っているわけではなくとも、すべての問題を(できれば)落とせないという意識が本試験ではより強く働き、無理をしてしまうわけです。

ここで強調したいのが、「理想点は満点じゃない」ということです。すべての問題を落とせない、すなわち満点を理想点と捉えると、前述の通り、本来正解できるはずの問題を落としてしまうおそれがあるため、まずは「満点が理想点である」という(無意識のうちの)思い込みを外して、自分の気を楽にしてあげることが大事です。

それでは、自分にとっての理想点とは何か。それは、「自分にとっての満点」ですすなわち、自分の学習してきた範囲(=テキストに記載のある知識)で解答できる問題は落とせないと考えるのです。それは裏を返せば、自分の学習してきた範囲で解答できない問題は落としてもよいということです。そもそも自分が本試験に合格が可能な実力を持ち合わせて臨んだのであれば、「自分の分からない問題=多くの受験生も分からない問題=合否に影響はない問題」と考えることができます。実際どうかは別として、本試験時にはこのように考えて開き直ることが重要です。

いかがでしたでしょうか。先程述べた通り、本試験当日の過ごし方は人それぞれです。あくまで参考として捉えていただき、自分に合いそうなところは活かしていただければ幸いです。

伊藤塾司法書士試験科講師 髙橋智宏


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2020年9月 2日 (水)

そもそも思考法2020~制度趣旨(そもそも)に立ち返り,未知の問題を撃破する~

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本試験日の9月27日まであと1か月弱となりました。

ここからの勉強で大切なのは、「やるだけのことはやった」というヤル気を纏った自分を仕上げ、本試験に送り出すことです。 中途半端に終わることのないように、今一度学習計画を見直し、本試験までに確実に終わらせられる分量に調整を行いましょう!

今回は、以前このブログで紹介した現場対応法「そもそも思考法」を、新たな練習問題を素材にして改めてご紹介したいと思います。

本試験においては,自分の知っている知識だけが出題されるわけではありません。もちろん,自分の知らない知識の問題は分からなくてもしょうがないといえますが、中には現場対応で解ける問題もあります。それは「現場思考力で解く」や「推理で解く」という言葉で片付けられがちですが、「そう言われてもどう考えればよいのか分からない」というのが、多くの受験生の心情ではないでしょうか。

そこで、現場思考の具体的な方法として、「制度趣旨に立ち返って未知の問題を撃破する方法」をお伝えします。

「制度趣旨に立ち返って未知の問題を撃破する」とは、自分の知っている知識の制度趣旨(そもそも)に立ち返り、そこから引っ張って未知の知識の問題の答えを出すというものです。私はこれを「そもそも思考法」と呼んでいます。

「そもそも思考法」の解法プロセスは以下の3ステップです。

〔STEP1〕 関連知識・似たような知識をもってくる。
〔STEP2〕 その知識のそもそも(制度趣旨)を思い出す(知らなければ現場で考える)。
〔STEP3〕 その制度趣旨を問題に当てはめる。

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それでは実際に練習問題を通して実践例を紹介していきたいと思います(以下の内容は現場思考法の実践例を紹介であり、学術的な内容の解説ではありません)。


〔練習問題〕

「共同相続人の一人が,被相続人が作成した遺言書に欠けていた押印等の方式を補充した場合でも,被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨でしたものであるときは,当該相続人は,相続人となる資格を失わない。」

【〇】(最判昭56.4.3)

ここでは、上記の問題で問われている判例知識を知っていたかどうかは重要ではありません。仮に知っていた方も、以下のそもそも思考法のプロセスに沿って検討していきましょう。

〔STEP1〕 相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は,相続欠格により相続権を失う(891条5号)。

〔STEP2〕 『そもそも』これは、遺言に著しく不当な干渉行為をした相続人に対して制裁(ペナルティ)を与える趣旨である。

〔STEP3〕 法形式を整える趣旨で遺言に手が加えられた場合は,ペナルティを与えるべきではないから,相続欠格には当たらない。


もちろんこれは現場での思考であるため、100%正答ができるわけではありませんが、時間的余裕がある午前の部では特に有効な解法となります。

なお、そもそも思考法では「深読みしすぎないこと」も大事です。そもそも思考法で答えを出したが、深読みしてしまってその反対の答えにして間違えてしまった、ということがないように、深読みをせずにシンプルに答えを出すようにしましょう。

とにかく、迷ったら制度趣旨(そもそも)に立ち返って考える。
ぜひ参考にしてみてください。

伊藤塾司法書士試験科講師 髙橋智宏

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2020年8月24日 (月)

2020年講師ブログ特別夏期講習(追加回)~髙橋講師:少額訴訟債権執行~

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 みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

 先日,2020年の受験生の皆さんを応援するため,8/5(水)~8/16(日)にかけて,この講師ブログで私と北谷講師による「2020年講師ブログ特別夏期講習」を実施しました。まだ見ていないという方は、今からでもぜひ取り組んでみてください。

 予想以上の反響があり、多くの方から好評の声をいただいたため、今回は追加回として「民事執行法:少額訴訟債権執行」を取り扱いたいと思います。

1 意 義

 少額訴訟債権執行とは,簡易・迅速な手続をとる少額訴訟手続に見合った,簡易・迅速な債権執行の制度として設けられた制度であり,少額訴訟の判決等の債務名義に基づく金銭債権に対する強制執行を,簡易裁判所で行うことができるようにしたものである。

〔補足〕少額訴訟債権執行による執行対象は,金銭債権に限られる(167条の2第1項)。

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2 申立て

 少額訴訟債権執行の申立ては,少額訴訟に係る債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う(167条の2第3項)。

〔趣旨〕少額訴訟が行われた簡易裁判所において債権執行をできるようにすることで,迅速な権利実現を図る趣旨である。

3 執行機関

 執行機関は,通常の執行機関のほか,申立てにより少額訴訟に係る債務名義が成立した簡易裁判所の裁判所書記官及びその書記官の所属する簡易裁判所である(167条の2第1項,167条の3)。当該裁判所書記官は,通常の債権執行手続における差押命令に相当する差押処分を行い,配当要求及び弁済金の交付の手続を担当する(167条の2第2項,167条の9,167条の11第3項)。

〔補足〕少額訴訟債権執行の不許を求める第三者異議の訴えの管轄裁判所は,困難な判断を要する事例が想定されることから,執行裁判所たる簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所とされている(167条の7)。

4 換価手続の方法

 差押債権者の金銭債権は,通常の債権執行の手続と同様の方法で,差押債権者自らが被差押債権を取り立てることができる(167条の14・155条)。

 これに対して,通常の債権執行の手続で認められている換価のための転付命令・譲渡命令・売却命令・管理命令・その他相当な方法による換価を命ずる命令(転付命令等)は認められない(167条の10第1項参照)。これらは,発令の要件について困難な判断を要することがあることから,簡易・迅速な手続により権利実現を図るための制度である少額訴訟債権執行の趣旨に沿わなくなるからである。

 そこで,転付命令等を求めようとするときは,執行裁判所に対して,地方裁判所の債権執行手続への移行を求める旨の申立てをしなければならない(167条の10)。

5 第三債務者の供託があった場合の配当手続

 差押処分がされ,その差押えに係る金銭債権について配当要求があり,第三債務者が供託をした場合において,債権者が2人以上であって,供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができないため配当を実施すべきときは,執行裁判所は,“職権により”,その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行しなければならない(167条の11第1項)。

〔趣旨〕少額訴訟債権執行において配当手続のような複雑な手続を行うことは相当ではないからである。

〔補足〕一方,第三債務者が供託した場合に,債権者が1人であるとき,又は債権者が2人以上であって供託金で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができるときは,裁判所書記官は,供託金の交付計算書を作成して,債権者に弁済金を交付し,剰余金を債務者に交付する(167条の11第3項)。

6 裁量による移行

 執行裁判所は,差し押さえるべき金銭債権の内容その他の事情を考慮して相当と認めるときは,その所在地を管轄する地方裁判所における債権執行の手続に事件を移行させることができる(167条の12第1項)。

〔趣旨〕これは,申立ての内容によっては,必ずしも簡易・迅速に手続を行うことができるとは限らず,困難な判断や複雑な手続を必要とする事件である可能性もあるから,裁判所の裁量により事件を地方裁判所に移行させることを認めるものである。

〔補足〕この決定に対しては,不服を申し立てることができない(167条の12第2項)。

 今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。≪確認問題の正解はこちら≫

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2020年8月15日 (土)

2020年講師ブログ特別夏期講習~髙橋講師:商号の登記~

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 みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

 現在,2020年の受験生の皆さんを応援するため,8/5(水)~8/16(日)にかけて,この講師ブログで私と北谷講師による「2020年特別夏期講習」を実施しており,私のパートでは,普段の学習で手が行き届きにくい分野を解説しています。

 今回は「商業登記法:商号の登記」を取り扱います。

 1 総 説

⑴ 登記の要否

 商人は,その商号を登記することができる(商11条2項)。すなわち,最初に商号の登記を申請するかどうかは任意である。

〔補足〕 一旦,商号の登記をした場合において,商号の登記の登記事項が変更又は消滅したときは,その登記を申請しなければならない(商10条)

⑵ 商号の選定

 個人商人は,営業の種類ごとに商号を選定することができるが,同一の営業で数個の商号を選定することはできない≪確認問題①≫(明31.12.8民刑1972号回答)

〔趣旨〕 同一の営業について数個の商号を認めると,営業の同一性の認識を誤らせ,取引上弊害が生ずるおそれがあるからである。

⑶ 相続人による商号の登記の申請

 商号新設の登記以外の商号の登記を申請する場合,その申請前に商人が死亡した場合は,当該登記をその相続人が申請することができる≪確認問題②≫。この場合,相続人であることを証する書面の添付が必要となる(法32条)

〔趣旨〕 商号新設の登記に限って相続人により申請できないとしているのは,相続人が,死亡した商号使用者の営業を商号とともに承継する場合には,現在の商号の帰属する相続人の名義で商号新設の登記を申請すべきだからである。

2 商号新設の登記

⑴ 登記すべき事項

 商号新設の登記における登記すべき事項は,①商号,②営業の種類,③営業所,④商号使用者の氏名及び住所である。

〔趣旨〕 ④に関して,個人商人の場合,営業を数人で共同経営することは,取引社会において通常行われることであり,1個の商号を2名以上で使用することも認められるため,商号使用者の氏名及び住所を2名以上として登記することができる(昭37.10.12民甲2927号回答)

⑵ 添付書面

 商号新設の登記を申請する場合,委任状(法18条)を除き,何ら書面を添付する必要はない。

3 商号の譲渡の登記

⑴ 申請人

 商号の譲渡の登記は,商号の譲受人が申請しなければならない(法30条1項)。現在の商号使用者は譲受人だからである。

〔補足〕 商号の登記をした商人が営業を廃止した場合,商号の廃止の登記を申請しなければならないが(商10条,法29条2項),商号を譲渡するに際して営業を廃止する場合は,譲受人が商号の譲渡による変更の登記を申請すればよく(法30条1項),譲渡人は商号の廃止の登記の申請することを要しない。

⑵ 添付書面

➊ 譲渡人の承諾書≪確認問題③≫

〔趣旨〕 商号の譲渡の登記は譲受人の単独の申請によるところ,不動産登記の共同申請とは異なり,申請構造からその真正を担保することができないため,譲渡人の承諾書の添付を要求し,登記の真正を担保している。

〔補足〕 譲渡人の承諾書には,譲渡人の登記所届出印を押印する必要がある(法24条7号)

➋ 営業とともに商号を譲渡する場合又は営業を廃止する場合に該当することを証する書面≪確認問題③≫

〔趣旨〕 商号は,営業とともに譲渡する場合か,営業を廃止する場合に限って譲渡することができるため(商15条1項),この場合に該当することを立証するため,当該書面を添付する。

⑶ 商号譲渡人の債務に関する免責の登記

 営業の譲受人が譲渡人の商号を続用する場合,譲受人も譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う(商17条1項)。ただし,譲受人は,この責任を負わないようにするため,商号譲渡人の債務に関する免責の登記を申請することができる(同条2項前段)

〔補足〕 当該免責の登記は,営業の譲渡による商号の譲渡の登記と同時又はその後にしなければならず,営業が譲渡されたことは登記官に明らかである。したがって,免責の登記の申請書には,営業を譲渡したことを証する書面を添付することを要しないが,譲渡人の承諾書を添付しなければならない≪確認問題④≫(法31条2項)

4 利害関係人による商号の登記の抹消

 商号の登記は,その商号が他人の既に登記した商号と同一であり,かつ,その営業所の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所と同一であるときは,することができない。そこで,次の場合には,商号の登記に係る営業所の所在場所において同一の商号を使用しようとする者は,当該商号の登記の抹消を申請することができる≪確認問題⑤≫(法33条1項)

① 商号の登記をした者が商号を廃止した場合において,商号の廃止の登記を申請しないとき

② 商号の登記をした者が正当な事由なく2年間当該商号を使用しない場合において,商号の廃止の登記を申請しないとき

③ 商号の登記をした者が登記した商号を変更した場合において,商号の変更の登記を申請しないとき

④ 商号の登記をした者が営業所を移転した場合において,営業所の移転の登記を申請しないとき

〔補足〕 この登記の申請書には,商号の登記に係る営業所の所在場所において同一の商号を使用しようとする者であることを証する書面を添付する(法33条2項)

 今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。≪確認問題の正解はこちら≫

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2020年8月13日 (木)

2020年講師ブログ特別夏期講習~髙橋講師:社債~

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 みなさん,こんにちは。伊藤塾講師の髙橋智宏です。

 現在,2020年の受験生の皆さんを応援するため,8/5(水)~8/16(日)にかけて,この講師ブログで私と北谷講師による「2020年講師ブログ特別夏期講習」を実施しており,私のパートでは,普段の学習で手が行き届きにくい分野を解説しています。

 今回は「会社法:社債」を取り扱います。なお,社債は株式会社だけでなく,持分会社も発行することができますが,ここでは株式会社における社債に絞った説明を行います。

 1 募集社債の発行

⑴ 意 義

 募集社債とは,募集に応じて社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。

〔補足〕 募集株式の社債版というイメージである。

⑵ 募集社債に関する事項の決定

⒜ 決議機関

 募集社債に関する事項(e.g.募集社債の総額,各募集社債の金額)の決定は,取締役の決定(取締役会設置会社では取締役会決議)によって行う(348条2号)

〔趣旨〕 募集株式の発行と異なり,「持株比率維持の利益の保護」及び「1株当たりの経済的価値の保護」を考慮する必要がないため,株主総会で株主の判断を仰ぐ必要がないのである。

⒝ 委任決議

 取締役会設置会社では,募集社債に関する事項の決定を取締役に委任することができるが,募集社債に関する事項の中でも重要な事項(e.g.募集社債の総額の上限)は取締役会決議で定めなければならない≪確認問題①≫(362条4項5号)

〔趣旨〕 社債の実態は一般公衆からの資金の借入れであり,今後の会社の事業活動に影響を及ぼすところ,重要事項については取締役会での審議を通じて慎重に決定するべきだからである。

⑶ その他の発行手続 ~募集株式の発行と募集社債の発行の相違点~

 募集社債の発行は,募集株式の発行と類似するところ,募集株式の発行と同様の規制が設けられているため,基本的には募集株式の発行の場合と同様に捉えた上で,次の相違点を押さえよう。

募集社債の申込者は,払込みをする債務と会社に対する債権とを相殺することができる≪確認問題②≫

〔比較〕 募集株式の発行の場合,出資を履行する債務と株式会社に対して有する債権を相殺することができない(208条3項)

② 募集社債の発行において,検査役の調査を必要とする規定はない。

〔比較〕 募集株式の発行において,現物出資の場合,原則として検査役の調査が必要となる(207条)

 2 社債管理者と社債権者集会

 ⑴ 総 説

 社債の実態は一般公衆からの資金の借入れであるところ,社債権者を保護する観点から,社債権者が共同の利益のために団結して行動できるようにするため,社債管理者及び社債権者集会の制度が設けられている。

〔補足〕 会社に代わって社債原簿の管理を行う者(社債原簿管理人)を定め,その事務を行うことを委託することができる≪確認問題③≫(683条)。なお,株主名簿管理人と異なり,社債原簿管理人を定めるに当たり,定款の定めは不要である。

 ⑵ 社債管理者

⒜ 意 義

 社債管理者とは,社債を発行する会社から,社債権者のために社債の管理(e.g. 弁済受領や債権保全)の委託を受けた者であり,社債権者の取りまとめとしての役割を担う。

〔補足〕 社債管理者は社債を管理する立場にあり,債権を管理する能力が求められるため,銀行や信託会社等でなければならない(703条)

⒝ 権 限

 社債管理者は,社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け,又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(705条1項)

⒞ 社債管理者の要否

 社債を発行する場合,原則として社債管理者を定めなければならないが(702条本文)①『各社債』(一口)の金額が1億円以上であるとき,又は②社債権者の数が50人未満であるときは定めることを要しない≪確認問題④≫(702条但書,施規169条)

〔趣旨〕 社債管理者は一般公衆の社債権者の取りまとめとしての役割を担うところ,社債権者が大口の投資家である場合,又は社債権者が公衆といえないほど少数の場合は,社債管理者を定めて社債権者を保護する必要はないからである。

⒟ 利益相反の規定

 社債権者と社債管理者との利益が相反する場合(e.g.社債管理者も社債発行会社に対して貸付債権を有している場合)に,社債権者のための行為をする必要があるときは,裁判所は,社債権者集会の申立てにより,特別代理人を選任しなければならない(707条)

〔趣旨〕 この場合,社債権者の利益を損なうおそれがあるため,利害関係を持たない特別代理人にその行為をしてもらうのである。

 ⑶ 社債権者集会

⒜ 意 義

 社債権者集会とは,社債契約の内容の変更等の社債権者の利害に関する事項について社債権者の総意を決定するための,社債権者の集会をいう。

〔補足〕 株主総会の社債権者版というイメージである。

⒝ 決 議

ア 決議事項

 社債権者集会では,①会社法に規定されている事項,及び②社債権者の利害に関する事項について決議することができる(716条)

〔趣旨〕 社債権者集会は,本来個別の債権者のみでは行うのが困難な事項を集団の力によって行うものであり,必要な限度で決議を行う権限を認めれば十分であるため,その決議事項が限定的に定められている。

 イ 決議の効力

 社債権者集会の決議は,裁判所の認可を受けなければ効力が生じない≪確認問題⑤≫(734条1項)

〔趣旨〕 社債権者集会の決議は,社債権者に譲歩を強いる内容(e.g.支払猶予,債権の一部放棄)が多いため,裁判所に審査をしてもらう趣旨である。

 今回の内容は以上です。最後に次の確認問題に取り組んでみてください!この記事がみなさんの学習のお役に立てば幸いです。≪確認問題の正解はこちら≫

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